「宮瀬先生」
「はい」

呼ばれて振り返った颯真は、三浦の姿を見て驚く。

「仕事中にごめん。ちょっと話せるかな?」
「はい、大丈夫です」

人気のない廊下の端まで来ると、三浦は少しためらってから口を開いた。

「実は菜乃…、鈴原さんのことなんだけど」
「彼女がどうかしましたか?」
「うん。退院した後の生活については説明してあるのかな?」
「まだです。退院がきちんと決まってから、塚本先生からお話があると思いますけど」

それはそうだろう。
分かっているが、どうしても颯真に言っておきたいことがあった。

「彼女、退院したらひとり暮らしのマンションから仕事に通うと言っていた。俺としては、せめて最低でも1ヶ月は誰かがそばにいた方がいいと思う。セカンドインパクトシンドロームにも充分警戒しなければいけないし、ひとり暮らしでは何かあった時に危険だ」
「ええ。塚本先生もそういったお話はされると思います」
「うん。それで宮瀬先生に聞いておきたいんだけど。もし君さえ良ければ、彼女をしばらくうちに泊めてもいいかな?」
「…は?」

颯真は思わず目をしばたかせて聞き返す。

「あの、どうして私にそんなことを?」
「いや、その…。君からしたら、俺は彼女を守るに値しない男かもしれないと思って…」
「はい?あの、おっしゃる意味が…。三浦先生がフィアンセの方とどう過ごされようと、私には関係ないことですが?」
「じゃあ、しばらく彼女を預かってもいいかな?」
「もちろんです。私に聞く必要もありません」
「そうか、分かった。ありがとう。それじゃあ」

そそくさと去って行く三浦の後ろ姿を、颯真は複雑な思いで見つめていた。