「こんにちは。これからおはなし会を始めます。みんなプレイルームに来てくださいね」

小児科病棟のマイクを借りて菜乃花が呼びかけると、次々と廊下に子ども達が現れた。

「おはなし会ってなーに?」
「おねえさん、だれ?」
「何しにきたの?」

菜乃花の周りに集まって、質問攻めにする。

「あはは!みんな元気だね」

今日は、図書ボランティアの初日。
まずは絵本コーナーの整理と、1冊読み聞かせをすることにして、菜乃花は颯真と約束した時間にみなと医療センターにやって来た。

みんな楽しんでくれるかな?と思いながら、菜乃花は子ども達を引き連れてプレイルームに行く。

「さあ、ではみんな。靴を脱いで上がってくださいね。初めまして、私の名前は菜乃花です。今日はみんなに絵本を紹介しに来ました」

えほんー?なんのー?おもしろいのー?

口々に尋ねながら、子ども達は菜乃花の近くに座る。

「みんな、この絵本知ってる?」

菜乃花は、小さめの絵本を見せた。

「知らない。何これ?」
「何の絵だと思う?」
「えー?鬼!」「目玉の怪物!」「変なおっさん!」

子ども達の反応に、思わず菜乃花は笑い出す。

「確かに。みんな面白いね!鬼にも、怪物にも、変なおっさんにも見えるけど、これは『だるまさん』です」
「だるまー?!」

声を揃えて子ども達が聞く。

「そう、だるまさんです。顔も面白いけど、やることも面白いの。見ててね」

そう言って菜乃花は、歌いながらページをめくる。

「だーるまさん。だーるまさん。だーるまさんが、アッカンベー」
「ぎゃはは!何この顔!」
「変なのー!」

大きな目をギョロッとさせながら、ベーッと下を出した赤いだるまの絵に、子ども達は指を差して笑う。

「次はどんな顔かな?だーるまさん。だーるまさん。だーるまさんが…知らんぷり」
「ええー?!」
「あはは!」

予想外の展開と、腕を組んでツーンと澄ました顔のだるまに、またみんな笑い転げる。

「まだあるよ。だーるまさん。だーるまさん…」

すると子ども達も菜乃花の声に合わせて、だーるまさん、だーるまさん、と歌い出す。

「だーるまさんが、おしりでボーン!」
「きゃははは!」

お尻を突き出して、もう一人のだるまをボーンと弾き飛ばす絵に、女の子がお腹を抱えて笑う。

次のページをめくる頃には、みんな、だーるまさん!だーるまさん!と元気に歌ってくれた。

「あー、面白かった!」
「あの顔、変だったね!」

絵本を読み終えると、子ども達は顔を見合わせて話し出す。

「みんな、楽しかった?」
「うん!」
「じゃあ、またおはなし会やるから、楽しみにしててね」
「はーい!」

子ども達は楽しそうに、だーるまさん!と歌いながら、病室に戻って行った。