翌週の木曜日。

菜乃花は小ぶりの花束とラッピングした本を持って、みなと医療センターの小児科病棟を訪れた。

「まさるくん」
「なのか!」

病室を覗くと、少し見ない間にどこか大人びた表情になったまさるが、菜乃花を見てパッと笑顔になる。

「なのか、怪我してたんだって?だいじょうぶかよ?」
「うん、もう大丈夫だよ。まさるくん、なんだかかっこいいね。私のこと心配してくれてたの?」
「バカ!そんなわけねえよ」
「あはは!本当にかっこいいね。はい、これ。退院おめでとう!」

菜乃花は花束と本を手渡す。

「え、くれるの?」
「もちろん!まさるくん、本を好きになってくれたもんね。おうちで読んでみて」

プレゼントしたのは、子ども図鑑。
色々なジャンルを分かりやすくイラストで解説してあり、乗り物や食べ物の他に、人間のからだの仕組みについても書かれていた。

多感な子ども時代に入院を経験した子ども達は、きっと誰よりも命や身体を大切にしてくれるだろう。
そんな気持ちで、菜乃花はこの本を贈ることにしたのだった。

退院の手続きを終えた母親が「そろそろ行くわよ」と呼びに来た。

まさるが廊下に出ると、ドクターやナースがずらりと並んで待っている。

「まさるくん、退院おめでとう!長い間よく頑張ったね」

三浦が笑顔でまさるの頭を撫でる。

「まさるくん、元気でね!」
「また顔見せに来てね!」

ナースや事務のお姉さんにも次々と声をかけられ、まさるは照れ笑いを浮かべながら無事に退院していった。

「今日はありがとう。来てくれて」
「いいえ。まさるくんに会えて私も嬉しかったです」

他のスタッフが持ち場に戻って行った後、三浦が菜乃花に話しかけてきた。
いつもと変わらない優しい三浦の笑顔を、菜乃花は懐かしく感じる。

「りょうかちゃんが図書館に来てくれたんです」
「へえ、りょうかちゃんが?元気そうだった?」
「はい、とっても。小学校に通ってるって嬉しそうにお話してくれました。まさるくんの退院のことも、りょうかちゃんが教えてくれたんです」
「そうだったんだ」
「それと、私、そろそろここのボランティアも再開させて頂こうと思っています」
「そう。体調は大丈夫?」
「はい。無理しないように気をつけます」
「分かった。それじゃあ、また。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます」

菜乃花は三浦にお辞儀をして見送る。

心の片隅に寂しさや心細さ、後悔や感謝、様々な想いが混ざり合い、菜乃花はうつむいてじっと自分の気持ちをやり過ごしていた。