こんな状況なのに可愛いと感じてしまった自分の心を叱り、優しく声をかける。

「僕は大丈夫だから」
「うん、あり、がと」

 この時ちょうど授業開始のチャイムが鳴った。もう少し話していたかったけど、チャイムがなってしまったから仕方がない。彼女はとても真面目だ。どんなつまらない授業でもちゃんと真面目に話を聞いている。そんな彼女を見ていると僕も頑張らなきゃ。と言う気持ちになる。
 僕は次の休み時間がとても楽しみだった。何の話をしようか?とか、今日はどこでお昼を食べようか?とか。考えたらキリがない。

「お疲れ様、お昼どこで食べる?」
「今日も、屋上でいいかな?」
「うん。そうしようか」

 お昼の時間はとても楽しい時間だった。彼女にお弁当に入っている手作りのおかずはどれも美味しかったから、冷凍食品まみれの俺の弁当はちょっと寂しい感じがした。
 だから僕も料理ができる様になりたい、と。妹に料理を教えてくれ、と頼んだ程だ。僕の急激な変化に妹は戸惑いつつも料理を教えてくれた。僕の料理は酷いものだったと思う。卵焼きを作れば焦がしてしまうし、スープを作れば野菜が硬かったり、柔らかすぎたり。
 よくよく振り返ってみれば米すらまともに炊くことができなかった。そもそも何合炊けば良いのか?と言う問題だ。妹によれば大体2合だそうだが、日によって3合炊いている日もあるらしい。よく分からないのでそこはお母さんと妹に任せることにしようと思う。

「大橋くん、料理上手になったね」
『ほんと!』
「今日も、食べる?」
『食べる!ありがとう』
「私ね。補聴器つける様にしようと思って…そしたらよく聞こえる様になるかなって思って。だから明日から大橋くんの声聞こえるよ」
『ほんと!やったぁ!普通に話せる様になるんだねおめでとう』


 楽しい昼食の時間はあっという間で、いつの間にか予鈴がなった。そして放課後、呼び出されていた屋上へと向かう。

「よぉ、よく来たなぁ?これから何をされるかも知らずに」
「約束はちゃんと守る」
「約束は守る?じゃぁ、これからもちゃんと守ってくれよなぁ?」
「あぁ、そのつもりだが……?」