彼をその気にさせる方法~ヤツと私の甘恋戦争。そう簡単には勝敗つきません~

出口付近に人影はない?

「はぁ…助かった」

立ち上がり背伸びをすると背後から口元を手で覆われた。

「良い度胸だな」
「うぐっ…」

(まだ居たの?!)

ジタバタと蒼真に背後から抱え込まれて身動きすら取れない。

「叫ぶなよ」

低い声に首を縦に振ると口元から手が離れ解放された。

「何か見た?聞いた?」

蒼真の声に振り返り、

「見てない、聞いてない!コレっぽちも!!」

確実に私の目は泳いでると思う。
正直に言うほど私もバカではない。

「ふーん」
「何よ!私が先に居たのよ!」
「へえー」
「わっわわ私は悪くないもん!」

イケメンに顔を近づけられて苦し紛れに悪態をつく。

「まあ、そうだな」

顔が離れて冷たいとは違う真面目なトーンで、

「さっきのは悪いけど忘れて」

蒼真の頬は真っ赤になっている。
2番目の男なのに殴られたのは少し気の毒で「飲みに行く?」と誘ってみる。

変な頼み事してるけどやはりここは同期だし慰めるとこでしょ!

「千波のくせに偉そうだな。さっきの」

こっちを見てくる蒼真の顔が何か企んでる顔をした。

「さっき?」

振られる現場の話なのか見てくる理由が分からない。

「常温のコーヒーだよ」

「あぁ、早く飲みたいかなって…」

適当に持って行ったコーヒーを“早く飲みたいかも”なんて優しい事なんて考えてるはずもない。

「俺、甘いの嫌い」

だから何だ?と言いたいけど蒼真は距離を詰めてくる。

「分かった!分かりました。ブラック淹れるから」

距離近いわ!!
いくら頼み事してるからってこの距離は心の準備が必要!!

後ずさりしながら距離をあけるけど近寄ってくるからまた後ずさり…

その結果

「千波、危ない!」

ガタガタガタガタ

後ずさりした背後には3mはある2枚のホワイトボードと倉庫に置けず仮に置いてあった木材の束。

蒼真の声に後ろを振り返るとスローモーションのようにボードと木材が私に向かって倒れてくるのが分かる。

(絶対死ぬ…)

固く目を瞑り頭を守るように腕を頭にかざすと引き寄せられた気がした。

(痛く…ない?)

閉じた目を開けると、

「いてぇ…」

座り込んだ私に覆い被さるように蒼真は私を守ってくれてた。

「だい、じょうぶか?」

蒼真の背後にはボードと木材が見える。
もし蒼真が居なかったら小さい私は潰れてたかも知れない。

「そ…そうま?」

驚きと怖さに震えて涙声になる。

「ははっ、泣きそうな顔するな」

そう苦笑いして「千波が無事で良かった…」とボソッと囁く声を聞いた。