彼をその気にさせる方法~ヤツと私の甘恋戦争。そう簡単には勝敗つきません~

「遊佐さんねー」
「よく普通の顔して仕事出来るよ」

給湯室のあるあるOLの愚痴。
ドアの無いこんな場所で愚痴るなんて皆んなに聞いて下さいって言ってるようなもんだ。

「主任さっき薬飲んでたの…絶対痛いんだよね」

「それなのに遊佐さん平然としてて。まじ最低」

最低ですか…
私が怪我すれば良かったなんて私自信が一番思ってる。

(糖分補給お預けか…)

トントンと肩を叩かれて驚き振り向くと「こっち」と小声の課長が笑顔で私の手を取った。

「大丈夫か?」

「私から元気取ったら何も残りませんよー」

ケラケラと笑ってみせると大きな手が私の頭を撫でてくれる。

(さっきの陰口を聞いたんだな…)

フロアと同じ階にある会議室に連れて来られた。

「お前は入社した時からそんなだな。企画がボツになっても残業続いても笑ってる」

窓からの景色に目をやって「懐かしいな」と寂しそうな顔をした。

「後2ヶ月くらいですね…。ご実家継ぐって」

「あぁ父親が倒れてな。旅館なんだが母親と妹だけじゃ大変らしい」

引き止める言葉出せるわけもない。
私も窓の外に目をやる。
眩しくもないしゴミなんて入ってもないのに目が痛い。

「課長、帰りましょう!」

このまま此処に居たら絶対泣いて課長をどうにかしてでも引き止めてしまう。

「何かあれば相談しろよ。伊月の愚痴でも良いし」

会議室のドアを開けてククッと笑い蒼真の倍はある丸い背中を私の前で振るわせる。

(もう見れなくなる…)

そう思うと涙が溢れそうになって唇を噛み締めた。

「噂をすればだなー。どうした?そんな顔して」
「二人で打ち合わせですか?」

課長の背中越しに聞こえた蒼真の声に涙を隠すように課長の後ろから顔を出した。

「少しな。まあ色々と」

課長は嘘を付いてくれるんだろう。
ニヤニヤ笑って私の手を引き寄せた。

「千波」

「伊月は会議か?俺達は終わったからどうぞ」

私を呼ぶ蒼真の声を遮って私の手を引いて歩き出した。
手は暖かくてぽにゃと大きい。

(泣きそうなの分かったのかな…)

引かれる手を軽く握りしめると課長は優しい笑みを私に向けて、

「面白い事になる」

と課長は呟いたのを握られた手が嬉しくて私の耳には入って無かった。