彼をその気にさせる方法~ヤツと私の甘恋戦争。そう簡単には勝敗つきません~

「まだ一緒に住んでないの?」

小声の璃子に「うん」とだけ答えてまた小さくなる。

「ご飯とか作ったりとか…あぁ、千波には無理か」

「まあ…無理だね」

料理の才能は母のお腹の中に置いて来てしまったらしく自宅ではもちろん蒼真に作った事もない。

「材料は届けてるから蒼真がお腹を空かせる事はないよ」

メールで一応聞いて欲しい物は与えてる。
雛鳥にエサを与えて親鳥の私は仕事に出てる感じ。

「いつまで経ってもその気になるわけないでしょ?胃袋掴まないと」

デコデコのネイルしてるくせに璃子は料理上手。
少し高めの身長に胸なんて…私とは真逆。

「何か別の方法でギャフンと」

「ギャフンと言わせちゃダメでしょ」

そうなんだけど…
峯岸さんと付き合ってた男が私で満足する要素はゼロ。

「色気無しの私が迫った所で相手にするわけないじゃない?」

貧乳と言われたばかりで自信も何もあったもんじゃない。

「それに朝から個人情報の質問攻めにあうし」

今は璃子が居るから事なきを得てるけど…

「入院先を教えて」
「自宅を教えて」

ひっきりなしに女の子達が集まってくる。

「個人情報漏洩は出来ません!てお断りしたけどしつこくて」

「大丈夫なの?本当に心配なんだけど」

教えてしまって蒼真のブチ切れる姿を見る方が何百倍怖い。

「危害を与えるヤツ来たらすぐ連絡して。すぐ飛んでくるから」

見かけによらず姉御肌の璃子は私のデスクに“とあるメールの一文”を置いた。

「彼に犯人探して貰ってるから」

「まあ様子見るし彼氏さんに宜しく言っといて」

本当は内心穏やかではないけど璃子を安心させる為にも元気いっぱいに笑顔を向けた。



蒼真の家に寄り伊月家のリビングで私はケーキを貪りながらもイライラする。

「お前何か気に食わない事あんの?」

さっきからパソコンに目を向けたまま全く見てくれない。
蒼真のパソコンを覗くと何語か分からない言葉の羅列が画面に写し出されてる。

「私のも見てよ!!」

プレゼン用に作った見積りと資料内容をヤツの目の前にチラつかせた。

「お前わざわざ印刷したの?紙の無駄。前にメール貰ったやつだろ」

パソコンだけじゃ見にくいかなぁと思った優しさだったのに裏目に出てまたイライラ。

「つか、金額一桁間違えてんじゃない?」

指摘され最後に取って置いたイチゴを奪われた。

(後で食べようと思ってたのに…)

「先に食べないお前が悪い」

(思った事が分かるって能力者か!!)

私のイライラを他所にどんどんミスを意味する赤のマークが増えて行く。
無駄な動きを排除したマウスとキーボード操作をする蒼真は…

「AI」

ボソッと呟くと、

「聞こえてる」

横目で見られて「ひゅるる〜」と吹けもしない口笛で誤魔化した。

「だから何でそんなに機嫌悪いんだよ」

パソコンから目を離さずマウスを動かしてた指がトントンとテーブルを叩いて圧を掛けてくる。

「すこぶる機嫌は良い」
「嘘だな」

速攻で返されて良い気はしない。
今度は璃子から渡された“とあるメール”のコピーを蒼真の目の前に突きつけた。