彼をその気にさせる方法~ヤツと私の甘恋戦争。そう簡単には勝敗つきません~

「大人の女はこうじゃなくちゃ」

「いいご身分だよ。それで大人の女?」

疲れた身体には甘々のバナナオレと甘々なチョコクッキー。

「蒼真も食べる?」

「俺は大人だから要らない」

「せっかくお見舞い持って来たのにー」

クッキーには目もくれず書類とブラックコーヒー。

嫌味な大人だ。

あの資料室の一件から一週間。
蒼真は首の軽いムチウチと背中の打撲が酷くて念の為入院になり“その気にさせる”どころでは無い。

「千波、あのシーサイドエリアのプレゼンどうなった?」

「あぁ、アレをどうしようかと」

「アレって言われても解読不可能」

頭の中に壁が思い浮かんでたからついつい言葉足らずに。

「壁に困ってるから、まあ壁にぶち当たってる感じ?」

「…」

凄ーく冷めた目で見られても気にしない。

「お前も営業だろ?設計に任せれば良いじゃん」

一級建築士を目指した物の叶わず企画をボツにされても尚営業の道にまだ身を置いてる。

「家って最大級の幸せな買い物な気がするんだよね」

「まあな」

ノートパソコンに目をやりながらも珍しく真面目に聞いてくれる。

「殆どのお客様が笑顔になるって言うか…それだけが幸せじゃないとは思うけどその一部に触れられるって素敵な事で」

おこがましいけど多くのお客様の幸せな買い物に少しでもお役に立ちたい。

「そう言うわけ!あっ、壁よね…漆喰(しっくい)も良いなぁって悩んでる」

真面目に話しすぎて恥ずかしい。

(雰囲気がいつもと違うからかな?)

個室の室内は二人っきりで静かだし…

「漆喰良いな。物件の内装は北欧風予定?」

「うん、だから日本feat.北欧で設計さんに話そうかと」

最近使う家が増えて来てる漆喰の壁材は別名“呼吸する家”って人気が上がってる。
湿気や乾燥にも効果があるから心地良くて住みやすい家になると評判。

「良いんじゃない」

「うーん、ただね…壁紙の方もねぇ」

設計さんから壁紙のパターンも考えてみたらと言われて色々迷ってる。

「蒼真なら、白、青、ピンク、ベージュどれにする?」

口は悪いけど出来るやつなのは事実。

(案外真面目な部分もあるのよねー)

昨年海外事業部から勉強の為と自ら短期の異動願いを出してうちの部署に来た蒼真は海外物には強い。