辺りはすっかり暗くなって、どこか遠くで犬の鳴き声が聞こえてきた。
ぽつん、ぽつんと点在する街灯は、なんとなく心細い。
自転車を押すときのカラカラという音が、やけに虚に響いた。
「……本当にありがとう」
私の横を、私のペースに合わせて歩いてくれる奥野くんにお礼を言った。
「いいよ、気にすんな」
奥野くんは私を励ますように笑う。
……その優しさが、いたたまれなくてどうしようもなかった。
「びっくりしたでしょう、うちのお母さん」
「あー……ああ、まぁ」
言葉をにごす奥野くんに、私はわざと明るい調子で笑う。
「すっごいヒステリーなの、お母さん」
「ヒステリー……」
「普段は美人なんだけど、ああなっちゃうともうダメ、妖怪みたくなるの!」
私は陽気に、「笑っていいよ」なんて言ってみる。
奥野くんは「はは……」と乾いた笑いをもらすだけだった。



