「ということがありまして、しばらくこちらを離れることになったのです」
 雑貨屋ソルティ・ミルクの一室。エレは骨董品の手入れをしていたソルティさんに今日あったことを話していました。
 ふんふんと相槌を打ちながらソルティさんは話を聞いています。
「日持ちするお菓子やパンも買い込んでおくので、適当に食べてくださいね」
「わたしもそこまで子どもじゃないんだけどね?」
「掘り出し物に夢中になって食事を忘れてしまっていること、今まで何回ありましたか?」
「……えへ」
「もう」
 エレが小さくため息を。
 ソルティさんは骨董品をテーブルの上に置きました。頬杖をついて笑顔を浮かべて、ゆっくりと話し出します。
「本当に楽しそうだね」
「はい、とても」
「エレと出会ってから、結構経ってるけれど……エレについて、今になってから知ることも多い。それがなんだか嬉しいんだ」
 ソルティさんはふわふわと笑います。
「これからも、こんな風にみんなと過ごせたらいいなあって、思うんだ。わたし」
「ソルティさん……」
 エレはひとつ思い至ったことがありました。けれど、今は水を差すのもと思うエレもいます。……今は、そっとしておきましょうか。
「みんなと、ずっと……」
 そのようなことをぶつぶつと言っていましたが、それもいずれ言葉にもならなくなり。少しの間を開けて、聞こえてきたのは規則正しい寝息でした。
「……ベッドに運ぶのはわたくしですのに」
 小さなエレの呟きは、言葉よりも棘はなく、あたたかな空気に満ちていました。ソルティさんが感謝を伝えたり今を尊ぶのは眠たくなってきた合図なのです。
 エレはそっとソルティさんをソルティさんの自室に運びます。ベッドに横たえ、布団を掛けてあげました。ソルティさんは目覚めません。いつものことでした。
「でも、……ふふ」
 聞こえてはいけないし、聞かれたら照れてしまうのですが……エレは眠たいソルティさんとする幸せが滲んだ会話が、好きでした。だから、つい眠気のあるソルティさんに話しかけに行ってしまうのでした。