あっという間に、ソルティさんに紹介された方の元へ行ってみる日がやってきました。
 ソルティさん曰く、そのひとは「えらーい教授さん」であるらしいのです。
 ……えらーい教授。この国において、「教授」という職業が示すものは、やはり。
「魔法……ですわよね」
 エレは気分が下向くのを確かに感じていました。
 ……エレは、「教授」ひいては「先生」というものに良い思い出があまりありませんでした。
 ソルティさんのお友達の「先生」はとても優しいひとでした。が、もはやエレの本能に刻み込まれているのです。先生というものに関する嫌な思い出が。

『こんなことも出来ないなんて……』

『……あなたは、本当に』

 ――いけない、いけない。
 エレは嫌な記憶に蓋をするように、違うことを考えないようにしようとします。
「そういえば……お迎えの方はまだでしょうか……」
 今、エレがいるのは城下町の入り口にあたるところ。大きな門の前でした。
(もしかして、教授様は町の外に住んでいらっしゃるのかしら……)
 なんて、思っていました。
 そのときです。
「迎えだ」
「へ?」
 何処からか声が聞こえてきて、エレは周囲を見渡しました。
 しかし、門を守る……といっても、この平和としか言えないご時世では、暇でしかなさそうに世間話に興じている門番のふたりくらいしか、周りにひとは見当たりません。
 はて、とエレが首をかしげます。
「下だ。下」
「下?」
 謎の声に従い、下を見てみました。
 すると、
「……あら」
 もこもことした毛に覆われた、犬のようなからだ、猫のような目。でも、翼のようなものがあるから違うような。
 そんな不思議な生物が、足元にちょこん、と座っていたのでした。
「我が主の命により、家事代行の者を迎えに参った。お前がエレか?」
「ええ、確かにわたくしがエレですわ」
 不思議な生物は、ふんす、と息を吐きました。
「ふふん。見たか――。我はただの珍獣ではないのだ。お使いくらい簡単にできるのだぞ」
 その声は自慢げで、なんだかそれがとても可愛らしかったので。
「な、なにをする!?」
 エレはその生物のもこもこな毛に手を突っ込んで。なでなで、なでなで。もふもふ、もふもふ。
「やめろ! ロイのようなことをするな! 我は珍獣なるぞ! 珍しい獣なるぞ!」
「もふもふ……」
「あー! 気安く触るな! 我のもふもふが乱れるだろう!」


「……」
「も、申し訳ありませんでしたわ」
「……」
 すっかり拗ねてしまった様子の不思議生物は、ぱたぱたとその小さな翼を羽ばたかせて、エレの手の届かない高さに浮かんでいます。
「そ、その、あなたの毛並みがとても素晴らしいものでしたので……」
 ぴくり。
「実際触ってみると、想像よりもずっと上質なものでしたわ」
 ……とす。
「ふ、ふん。当然だろう。我は珍獣だからな!」
 よかった。機嫌を直してくれたようです。エレは、ほっと息をつきます。
「では、その「教授」様の元に案内していただけますか?」
「ふふん。良いだろう。ロイの家はこちらだ。着いてくるといい」
 不思議な生物は、門の外へと歩き出しました。