そんなこんなで落ち着いて。シュトロイゼル先生のお屋敷の庭に備え付けられたテーブルでお茶をしていたエレとシュトロイゼル先生でしたが。
「やあ、ロイ先生」
「こんにちは、ロイ先生」
 そこに現れたふたりの姿を見て、エレは一気に先ほどの混乱を思い出してしまったようでした。
「ああっ! ニュイ様とルージュ様っ!」
「どうかしたのかい? エレ」
「あらあら、顔が真っ赤よ? エレ」
 にやにやとした笑顔でエレを見るのは、紛れもなくニュイとルージュのお二人で。
 そういえば彼らは「ロイ先生のところへ資料を取りに行く」と言っていたのでした。だから、ここにいるのも通りなのです。
 ですが、エレにとっては自分を弄んで、その上シュトロイゼル先生の前で醜態を晒させたふたりなのです。
「どうかしたもなにもっ! お二方のせいでわたくしは」
「まあまあエレくん落ち着いて」
「落ち着けませんわっ!」
 今にも噛みつきそうな勢いで食って掛かるエレは、落ち着きという単語とは程遠いようです。
 しかし、ニュイとルージュはそれを実に楽しそうに見ているだけ。……悪趣味です。悪趣味すぎます。
 エレをなんとか落ち着かせようとするシュトロイゼル先生でしたが、なんともうまくはいかないようで。
 だんだん混沌としてきたその場に、ひとり。いや、一匹の救世主が現れるのでした。
「うなー」
 そんな甘えたような鳴き声と共に、すりすり、とエレの足にからだをすり付けるのはクルール。
 そうして、クルールはまた次の一手を打つのです。
「ごろごろ」
 喉をならして、クルールがごろんと地面に寝転がります。
 エレにお腹を見せて、ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ……。
「……ほわあ」
 エレには効果抜群だったようです。
 しゃがみこんでクルールを撫で回しにかかるエレには、もうニュイとルージュなんて見えていないようでした。
「ふふ、クルールさまさまだね。ねえ、ルージュ」
「本当ね。わたしもクルールをもふもふしたいわ。ね、ニュイ」
 くすくす、くすくすと笑うふたりに。
「おふたりには後でゆっくりお話がありますから」
 クルールに向けるよりも確実に温度の低い声が、ニュイとルージュを射抜くようにはっきりと告げられました。
「……エレがこわいなあ。ねえ、ルージュ」
「そうね。ロイ先生、助けてくれないかしら……。ね、ニュイ」
「残念だけど、私もエレくんには頭が上がらなくてね」
 諦めてお説教を受けてくれ。
 そう言うシュトロイゼル先生は、苦笑いでニュイとルージュを見ていて。
「こわいねえ、ルージュ」
「ええ。こわいわね、ニュイ」
 それでもニュイとルージュの笑顔は変わることはなかったのでした。