○橙和の家のリビングダイニング、平日朝

帆音モノ:橙和との生活が始まって5日経った

キッチンに立つ橙和、カウンターに座って待つ帆音
(2人ともそれぞれ自分の高校の制服を着ている)

橙和「はい、コーヒー」
帆音「ありがと」
橙和「食べよ」
帆音「うん」

橙和・帆音「いただきます」

朝食(パンとコーヒー目玉焼き、サラダ)
をキッチンカウンターで食べる橙和と帆音

帆音モノ:
橙和は毎日こうしていろんなお世話をやいてくれ、約束の1日1わがまを叶えることも続行中だ。
私はなかなかに甘やかされている

橙和がコーヒーを飲みながらスマホを確認

橙和「あーごめん、今日夜ご飯作れないや」

帆音「うん、全然大丈夫だよ。自分でやるよ。
仕事?」 

橙和「うーん、まぁ。
ライブに出ることになった」

帆音「ライブ?!
橙和ライブするの?歌う?!」

橙和「歌わない。先輩のライブのベースの助っ人をやることになって」

帆音「ベースの助っ人…」
帆音(ピアノとギターを弾くのは知ってたけど、ベースも弾けるのか…)

橙和「だからごめん、遅くなる。
なるべく早く帰るけど、ちゃんと戸締りして…」

帆音「行きたい!
私観に行きたいなぁ。橙和の演奏」
目をキラキラさせる帆音

橙和「いや無理。俺余裕ないし、
相手してあげられないから」

帆音「全然いい。
勝手に聴いて勝手に帰るし、邪魔しないから…!
あ、今日のわがままこれがいいです」

えぇ〜っとすごく嫌そうな顔をする橙和、

帆音「お願い!」

全力で手を合わせてお願いする帆音
橙和、覚悟を決めてため息を吐く。

橙和「分かった。
夜だし誰か友達誘って来な?
これチケット」

チケットが2枚机に置かれる

帆音「分かった!ありがとう」
嬉しそうに笑う帆音。

帆音の笑顔にしょうがないなって顔でほだされる橙和の笑顔
その笑顔をこっそり横目で見る帆音。

帆音モノ: わがままを聞いてくれる時、橙和はいつも少し嬉しそうに笑う。

貰ったチケットを眺める帆音

帆音(嬉しいのも得してるのも、私の方なのに)

帆音モノ:橙和はなんで、こんなに良くしてくれるのかな
帆音(なんか都合よく考えちゃうな…
橙和があんな顔するから…いやでも橙和は優しいだけ…いや、うーん…)

チケットを手に、1人悶える帆音
橙和「何やってんの?」
冷静にツッコミを入れる橙和
帆音「いや別に…」
笑顔でごまかす帆音

橙和「考え事して歩いて、転ばないでね」
帆音の頭をポンポンと撫でる橙和。
橙和に撫でられた頭を自分で触る帆音。

帆音(なんか私、変なんだよな…)
帆音モノ:触れられた場所が、熱い気がして、こそばゆい
帆音(わがまま聞いてもらえて、ハイになってるのかな…)

○帆音の教室、朝

自分の席でスマホを見る帆音

帆音の前の席の悠生が来て、自分の席にカバンを置き帆音の席の方を向く。

悠生「帆音おはよ。」

帆音「おはよ〜」

悠生「帆音さ、今朝俺、同じ電車で見た気がしたんだけど?
帆音んちって逆じゃなかったっけ?」

帆音の席に片腕をついて話しかけてくる悠生
帆音( そうか悠生こっち方面だったな)

帆音「あ〜、最近いとこの家にお泊まりして、そこから通うこと多くてさ!」
笑顔で誤魔化す帆音。

悠生「ふーん?…
進路決まったからって
ハメ外しちゃってるんでしょー。
やだ〜不良〜」
ふざけてキャピキャピ話して帆音をからかう悠生

帆音「アンタに言われたくないんだけど〜」

悠生「違うの俺は何もしてないの〜
ただモテちゃうだけなの〜」
ぶりっ子する悠生

帆音「ファンたちに見せたいよ、この姿を…」

悠生「ふははっ」吹き出す悠生

帆音モノ:悠生は、同じクラスになってから話すようになって、チャラいけど、良い奴で話しやすい。

悠生「てか地図、どっか行くの?」

帆音のスマホの画面に映し出されたマップを指差す悠生

帆音「ああ、そうだ
悠生ってClub Lっていうライブハウス行ったことある?」

悠生「あるよ!
俺音楽大好きだもん〜。
ライブ行くの?
帆音がライブとか珍しくね?」

地図を見ながら上の空の帆音
帆音「うーん…、場所がよく分かんなくてさ‥」

立夏「帆音おはよ〜」
帆音の隣の席の立夏が来た。

帆音「立夏!おはよ!
ねぇ今日ライブ一緒に行かない?!
橙和が出るから行きたいんだけど、
ライブ初めてでよく分かんなくて…!」

登校するなり帆音の圧に圧倒される立夏
立夏「やー、今日無理だわ。
塾のあと彼氏とちょっと会う〜」

帆音「そうだよね‥てかごめん受験生に(涙)
何言ってんだよ私は…」
涙目でうなだれる帆音

立夏「気にすんな。
私受験余裕組だから!
推薦合格おめでとうやで!」

優しい笑顔で
帆音の肩にポンと手を置く立夏

帆音「立夏〜!ありがとう〜」
泣き顔で、立夏に抱きつく帆音

帆音モノ:立夏は、中学からの仲良しで、
芯があって、器がでっかい、大好きな親友。

帆音(ああ〜。最近プライベートが忙しかったから、いつもと変わらない学校、落ち着くなぁ)

しみじみとする帆音。

悠生「それ俺が一緒に行こっか?
俺なら場所分かるし♪ライブ行きたいし♪
専門だから受験しないし♪」

キュルンとした顔で自分を指差す悠生と
それを見る帆音と立夏

立夏「適任じゃん」
帆音「だね」

○Club Lの中、夜

Club Lの看板カット

悠生「ん、ドリンク。こっちが帆音のジンジャーエールね」
帆音にドリンクを手渡す悠生
帆音「ありがとう〜。ライブハウスってこういう感じなんだね〜」
キョロキョロする帆音

帆音(橙和、どこかにいるのかな…)

ライブ会場の後ろの方にある小さな丸テーブルのところに立つ帆音と悠生。

悠生「で、帆音の幼馴染はベースだっけ?」

帆音「うん。でも普段は1人で曲作って歌ってるんだよ。配信もして」

悠生「まじ?なんて人?」
帆音「ティーオーダブリューエーで
towaっていうんだけど…ちょっと待って今スマホで出すね」

スマホを探す帆音

悠生「まじ?知ってる知ってる。俺超好きだよ。
めっちゃ聴いてる。
え、友達?」

帆音「うん…。悠生towa知ってるの?」
悠生「うん。有名だと思う」
帆音「そうなんだ、知らなかった。
橙和ってすごいんだね…」
悠生「まぁ、帆音は音楽疎いからねぇ。
そっか今日towaがベースか〜楽しみだわ〜」

帆音(私って橙和のこと全然知らないんだなぁ…)

少し寂しそうな顔をする帆音

パッと会場が暗くなり
ステージだけが照らされる
ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムの5人の姿が映し出される

キャーーという歓声が沸く。

ドラムの
「1.2.3.4‥」の合図とともドラム、ギター、ベース、キーボードが一斉に音を鳴らし、曲が鳴り響く。
ボーカルが大きな口を開け美しく歌う。
黒シャツを着て髪を上げた
普段よりもっと大人っぽい橙和が
テレビで観るアーティストのようにベースを鳴らしている。

帆音は口元に両手を添え、目を見開いて圧倒されている
身体を揺らし目を閉じて聴く悠生は、
音楽の気持ちよさに口が笑っている。

帆音(橙和だけど、橙和じゃないみたいだ…)

帆音モノ:ズシリと響く1音1音が、振動を伝って胸に響く
橙和の鳴らす音が、他の楽器やボーカルの音と混ざって
身体中の感覚を奪い去って夢中になってしまう

感動と驚きで涙目になる帆音
帆音(すごいなぁ、カッコいいなぁ)
帆音(あ…)
不意に橙和と目が合った気がした
しっかりと帆音を見て笑いかける橙和

帆音(橙和と今、目が合った…?)
ドキッとする帆音
帆音(って、よくファンが勘違いするやつ…!苦笑)
帆音は、頬を赤く染め自分ツッコミをした。

MCが始まりボーカルがメンバーを紹介していく。橙和の番になる。

ボーカル凌「今日はベースに、スペシャルゲスト兼ピンチヒッターとして来てくれた、towaくんを迎えてまーす!

あのtowaがベース弾いてたんだよ〜すごいっしょ〜!
はい自己紹介して〜!」

橙和「towaです」

凌「…はい。ってそれだけかい!
アナタ人気あるんだから!
もっとお話してッ!」

会場から笑いが起こる
ぼやっと無言で立っている橙和。

凌「そうだな〜、じゃあアレだ!
好きなタイプはどんな子?」

橙和「関係なくないスか?それ」

またも会場から笑い声が湧く

凌「いいじゃんいいじゃん知りたいの〜!
ちなみに俺はね、元気な子〜!
はいtowaくんは〜?」

橙和「…わがまま言うの苦手な子」

それを聞いた瞬間帆音は驚いて目を見開く。
帆音(それって…)

凌「独特!細か!まぁいいけどさ〜。
んじゃ次はドラム〜」

(回想)
橙和「わがまま言って、叶えてもらって、嬉しかったら、笑ってよ」
(回想終)

以前の橙和の言葉が思い出される帆音

帆音モノ:橙和の好きなタイプって
帆音(私のこと…?
え、いや、でも、そんな…)
赤くなり混乱する帆音

帆音モノ:今まで

幼馴染だからとか
放っておけない性格だからとか
私が不甲斐なさすぎるからとか

帆音(そう思ってたけど)
帆音モノ:橙和は…私のこと…
帆音(もしそうなら…)
帆音モノ:私は…?

ライブが終わる。
ライブの感想を口にしながら
はけていく観客たち
放心状態の帆音

悠生が帆音の顔の前で手をひらつかせる。
ぼーっとしている帆音
悠生「おーい?」
パンッと帆音の前で手を叩く悠生
帆音「わっ!何?!」
悠生「何じゃない。ライブ終わったぞ。帰るぞ」
帆音「あ、うん」

ヴヴッと帆音のスマホに通知が来る。
スマホを確認する帆音

画面に映る橙和のメッセージ:受付のところで待ってて。一緒に帰ろ

◯受付
受付の近くでまつ帆音と悠生

悠生「立夏に写真送るか」
帆音「それいいね!」

何の確認もなくいきなりパシャッとスマホで写真を撮る悠生

帆音「ちょっ!いきなり撮らないでよ!もう一回!」
悠生「やだ〜」

背伸びして悠生からスマホを奪おうとする帆音。それを阻止しようとする悠生。
戯れあっているように見える2人。

グイッといきなり、帆音の後ろから帆音を抱き抱えるようにして引っ張り登場する橙和

帆音「橙和!」
橙和「帆音、おまたせ」
橙和の顔が緩む

橙和「…誰?」
冷たい顔で、悠生を見て言う橙和
帆音「悠生だよ。同じクラスの友達で、
今日一緒に来たの。towaの曲も、好きなんだって!」

橙和「…どうも」
ジロリと悠生を睨みつける橙和
悠生「どうも〜」
ヘラヘラ笑顔で対応する悠生

悠生がコソコソ声で帆音に話しかける
悠生「ちょっと怖いんだけど〜幼馴染くん。
俺めっちゃ警戒されてんじゃんw
君たち付き合ってんの〜?」

赤くなる帆音。同じくコソコソ声で答える
帆音「つ、付き合ってないよ!
悠生みたいなチャラい見た目の人嫌なんじゃない?w」
悠生「あ?やんのかコラ笑」

またも仲良さげに戯れ合う2人を、
不穏な圧を持って見つめる橙和

光歌莉「橙和!待って!」

橙和が出てきた奥の方から声がして、
金色の長い髪をふわりと靡かせた美女が現れた。
そしてそのまま橙和の胸に飛び込んだ。

青ざめる帆音
好奇心いっぱいの目をする悠生

光歌莉「今聴いた!この曲最高!」
橙和に抱きついたまま興奮気味に伝える光歌莉

抱きついた光歌莉の肩を両手で掴んでグイッと引き剥がす橙和
橙和「…そう?ならよかった」

光歌莉「早くこの曲で歌いたい〜!
ん?この人たちは?」

帆音と悠生を見つけた光歌莉が橙和に尋ねる。

帆音「あ、帆音です。橙和の幼馴染です」
帆音は自分で小さく手を挙げ答えた。

悠生「その連れの悠生でーす」
手をヒラヒラさせて笑顔で答える悠生。

橙和「こちらは光歌莉さん。
今度俺の曲で歌ってもらうんだ」
光歌莉を手で指し紹介する橙和

光歌莉「私、towaの曲の大ファンなの」
目をキラキラさせて言う光歌莉

光歌莉「橙和の幼馴染ちゃん?!」
帆音「あ、はい…」
帆音(綺麗な人だな…)

光歌莉「それであなたが彼氏くんね?!」
悠生にそう聞く光歌莉に、
少し驚いた表情をみせた悠生

帆音「えっと、私たちは…」

帆音が自分と悠生はカップルではないと否定しようとすると、
橙和がグイッと帆音の腕を引いて自分の方に寄せた。

帆音「橙和…?」
帆音が橙和を見つめて聞く
橙和は悠生の方を睨んでいる

一瞬の緊迫した空気を、悠生の発言が破る

悠生「俺は帆音の彼氏じゃないですよ。
でも、
彼氏になれたらいいな〜とは思ってます」

突然、にっこり笑って悠生が答えた。

帆音(は?!悠生?!何言ってんの?!)

びっくりして焦る帆音。
目を見開いて眉間に皺を寄せ、言葉を失う橙和
面白そうに笑顔になる光歌莉