橙和「確認。俺と帆音の境界線の。
帆音、こっち向いて…?」 

大きな手で頭を撫でて、耳元で囁く橙和
ドキドキで混乱する帆音
帆音(ど、どうしよう…!)

橙和「はぁ…」
帆音に近づきながら、
橙和が理性と本能がギリギリでせめぎ合うような表情で息を吐く。
橙和(これ以上は、俺がヤバイよな…)

帆音「橙和、やめて…」
赤い顔で震えながら、涙目で抵抗する帆音

逆に煽られて、カァァッと赤くなる橙和。
橙和(抑えろ…)

橙和「ふー…」
落ち着きを取り戻すために息を整えた橙和

橙和「帆音、よくできました」
さっきとは打って変わって、
顔の横で両手をパーの形で広げて
おどけてみせる橙和

帆音「へ…?」
目を瞑っていた帆音は、そーっと目を開ける。

橙和「もし俺に襲われたら、今みたいに…できればもっと強く、怒ってもいいから
ちゃんと抵抗して自分の意思を伝えるんだよ」

帆音「…」
赤い顔で呆然とする帆音

橙和「帆音、聞いてる?
帆音「へ?あ?うん。聞いてる!」

橙和「ごめん。怖い思いさせて」
帆音(怖い…?っていうか、ドキドキしすぎて変になりそうだった…)

橙和「帆音は、相手が扱ったように扱われるようなところがあるんだ」

帆音(アツカッタヨウニアツカワレル…?)
帆音「え?何?難しいんだけど」

橙和「流されやすいってこと。本当は、帆音がどうしたいかっていうのをもっと大切にしてほしいんだよ」

帆音「はぁ…」
帆音(そういわれてもな…)

橙和「じゃないと俺、止まれないかも。
帆音、襲われちゃうよ?」

赤くなる帆音。
帆音「えっ…と、橙和は私とそういこと、したいとか思うの?」

橙和「思うよ」
真っ直ぐに帆音を見つめて、すっぱりと言い放つ橙和
帆音(ドキ…)

橙和「すごい思うし、いつも思ってるけど」
もじもじする帆音に詰め寄るように近づく橙和
橙和「だから…」

帆音が手でストップ!のポーズをする

帆音「わ、分かった!ちゃんと気をつけるし、もしもの時は怒る!」

橙和「うん、よろしく」

へたり込んでいる帆音は、
片付けを始めた橙和を見つめる

橙和「思うよ。」
さっきの橙和の言葉と顔がまた浮かんで、
ドキドキしてまた顔が赤くなる
イメージをかき消すように手で顔を覆う帆音

帆音(橙和も男の人なんだな…)
(ドキドキドキドキ…)
帆音(距離感、気をつけよ…)

○橙和の家での様子ダイジェスト

帆音モノ:ところで、橙和のスーパー主婦ぶりは、すごかった…
流れるように荷物を片付け

橙和がテキパキと片付ける様子
橙和「帆音の持ち物はここら辺に置いて…」

帆音モノ:私に必要なことを説明し

橙和「右手がトイレとお風呂、その横が寝室、向かいに音楽部屋、冷蔵庫のものは自由に使ってよくて、日用品のストックはここ、お互いの連絡事項はこのボードを使おう」

帆音モノ:あっという間に買い出しへ行き
橙和「俺スーパー行ってくるから帆音休んでて」

帆音モノ:橙和を待つ間寝こけてしまった私が目を覚ましたら


食卓に並ぶご飯と味噌汁と小鉢とサラダと唐揚げ

帆音が感動する
帆音「お、美味しそう…!」

橙和、微笑みながら
橙和「食べよ」

○橙和の家のダイニングテーブルで食事

「いただきまーす」
夕飯を食べ始める橙和と帆音

帆音「美味しい〜」
ほっぺに手を添えすごく美味しそうに食べる帆音

帆音「幸せ〜」

美味しそうに食べる帆音を幸せそうに見つめる橙和

帆音「橙和はすごいなぁ。なんでも自分でできちゃって。
家のことに、勉強に、好きな音楽を仕事に…。私は今だにお父さんの幸せすら、素直に喜べなくて。
なんか不甲斐ない…私も橙和みたいに大人になりたい。」

もぐもぐ食べながら、
笑顔で、でも寂しげに言う帆音。

橙和「……。
勉強は得意なだけ。
家のことは柑奈にこき使われて慣れたんだよ。音楽は、正直まだまだ。
この家だって親の援助があるし。
俺だって自分が不甲斐なくなる時は、あるよ」

帆音「そっか」
(橙和には橙和の悩みがあるのかな)

橙和「帆音は、小さい時、いっぱい頑張ったんだろ」

帆音「え?」

橙和「お母さんの離婚とか、再婚とか、おじさんと2人暮らしになったり。

でも俺と会った時の帆音は、
そんなの全然感じさせないくらい、
いつもすごい笑ってたよ。」

(橙和の回想)

帆音「橙和すごい、ピアノじょーず!
もっかいやって!私橙和のピアノ大好き!」

照れながらピアノを弾く橙和
嬉しそうにくるくる回る帆音

(回想終わり)

橙和(嫌いだったピアノ、あれからめちゃくちゃ練習したな…)

昔を思い出しながら、少し微笑み、
懐かしむ橙和

橙和「あの頃頑張ってたんだから、今少しくらい甘えたり、わがまま言ったって大丈夫だよ」

橙和が優しく諭すみたいに言った。

帆音「ふふ、ありがと、橙和」
微笑む帆音。

帆音(橙和がいて良かったな、
私、少しずつでも変わりたいな…)

○食後のキッチン
洗ったお皿を拭いている帆音。

帆音(といっても、どうしよう。
勢いで橙和と結婚…なんて言って
同居を始めちゃったけど、
結婚生活って、具体的に何するんだろう)

ガチャ

お風呂上がりの橙和登場
髪が濡れた姿で、肩にタオルをかけて
普段は見ないメガネをかけている

橙和「お風呂お先、帆音も入りな?」

帆音「ありがと…。橙和がメガネだ?!」

橙和「ああ、うん。昔はかけてたでしょ?目悪いからさ、コンタクトなんだよね、今は」

帆音「確かに久しぶりだ。似合うね」

橙和「何?好きなの?メガネ男子」
ニヤリと笑い聞く橙和。

橙和をじっと見つめる帆音
帆音「うん、かっこいいね…」
(メガネ男子好きだけど、
橙和はなんか別格に似合うな…)
他意はなく正直な感想を伝える帆音。

照れて赤くなる橙和。

じっと橙和を見つめる帆音に、
吸い寄せられるように
キスをする体勢になる橙和

唇と唇が近距離になって、ハッとする帆音

帆音「ちょ、ちょ、ちょ!橙和!ストップ!」

ストップを表す手つきで橙和を止めて、
ぎゅっと目を瞑って拒否する
赤い顔の帆音

橙和「…ダメか」
残念そうに笑う橙和
帆音「…ダメだよ!」
ドキドキで語気が強くなる帆音

口元に手を当てて、何か考える素振りの橙和。

橙和「結婚ごっこなのに?夫婦のスキンシップとしてのキス、大事じゃない?」

帆音「え、そう、かもしれないけど…。でも私たちは、ちょっと違うっていうか、違わないけど、でも…えっと」
帆音(橙和、さっきは流されるなって…でも確かにスキンシップは結婚生活で大事なんだろうけど、、でも…)
赤くなってしどろもどろに答える帆音

ふっと吹き出す橙和。
帆音「ちょっと!からかってる?!」

橙和「いや、違うよ。ごめん。
俺、今すごい浮かれてる。
帆音にちょっかいかけたくて、
しょーがなくなってる」

白状するみたいに照れて話す橙和

帆音「浮かれる?」

橙和「うん。
帆音と一緒に暮らせて、嬉しくて」

その言葉に、グッとくる帆音。
「嬉しいの…?」

橙和「うん。すごく。
でも俺ばっか楽しくてもダメだから、
あとで話し合おっか
この生活でお互い、どんなことがしたいか」

帆音「どんなこと…」

橙和「考えといてよ」
帆音「分かった」

○お風呂場
湯船に浸かって、考える帆音

(回想)
橙和「帆音と一緒に暮らせて、嬉しくて」
(回想終)

さっきの橙和の言葉をかみしめる帆音。

帆音(私といて、嬉しいの…?
私、なんにもして無いのに。
むしろ橙和には、
お世話になりっぱなしなのに)

瞳に浮かんだ涙を手で拭う帆音。 
帆音(なんか、嬉しいな…)

帆音モノ:でも、こんな嬉しいこと、続かない…

(回想)
帆音ママ「ギャーギャー泣かないでよ!
うるさい!だから子供って嫌いなのよ!
大人しくして!良い子でいて!」

幼い帆音「ごめんなさい、ごめんなさい」
(回想終)

帆音(怖い…。また嫌われたら…)

湯船の中で、顔色が悪くなる帆音

◯リビング
メガネ姿で座る橙和、時計を確認する
橙和(帆音、時間かかってるな…大丈夫か?)

「ガタンッ」

浴室の方から大きな物音がした。
橙和は、帆音に何かあったのかと
急いで浴室へ向かう

◯脱衣所
コンコンコン、橙和が洗面脱衣所の開き扉をノックする

橙和「帆音?どうした?大丈夫か?」
橙和(返事が、ない)

一瞬考える橙和。意を決する

橙和「帆音、開けるぞ」
そっと扉を開ける橙和

扉を開けると
裸にバスタオルを巻きつけた帆音が、脱衣所で倒れてるいた。

橙和「帆音!?」

◯寝室

服を着せられた帆音が、
橙和のベットで眠る

橙和「帆音、起きれる?水飲んで?」

帆音「ん…」

起きない帆音。

帆音「…んなさい。ごめんなさい。お母さん
良い子でいるから。
嫌わないで…」

眠りながら、うなされる帆音。
閉じた瞼から涙がつたう。
それを見て、やるせない表情を浮かべる橙和

橙和は、ペットボトルの蓋を開け、
自分の口に水を溜めた。
そして帆音に口付けをして、
帆音の口に水を含ませた。

眠りながら、コクンと、
口移しされた水を飲み込む帆音。

橙和は切ない表情を浮かべ、
帆音の顔に自分の顔を寄せて、
帆音の頭を優しく撫でた

橙和「帆音…」

◯引き続き寝室
目を覚ます帆音。

橙和「起きた?」

帆音(あれ…私…)

ベッドに寝る帆音の横で、
同じくベットに横たわりながら、
帆音を見ていた橙和。

橙和「帆音、脱衣所で倒れてだんだよ。
頭とか、どこも痛くない?」

帆音「うん。どこも痛くない。
そっか、私…。
ごめんね。お湯に浸かりすぎちゃったみたい」

橙和が帆音の頭を撫でる

橙和「まじビビったよ。
何もないなら、良かった」

帆音「うん、ありがとう」
(ん?)
「橙和、この服って…」

橙和「あー…。俺が着せた」
顔を逸らしながら答える橙和。
帆音「え!!」
びっくりする帆音と
少しやましくて、引き続き目を逸らして答える橙和

橙和「必死だったし、そんな見てないよ。
上手く着せられてなかったら、ごめん」
橙和が早口で説明する。

恥ずかしくって赤くなる帆音
帆音(確かにちょっと、服がずれててゴワゴワする…)

言い訳してるみたいな橙和横顔を見る帆音。
耳と頬が赤くなっている。

帆音(なんでも涼しい顔でこなしちゃう橙和なのに…。一生懸命着せてくれたのかな)
微笑む帆音。

帆音「ふふ。ありがとう。
気をつけるね、お風呂」

橙和「本当そーして」


橙和「帆音、今日は一緒に寝よっか」

帆音「え…」

橙和「何もしないよ。くっついて寝ると安心するでしょ。そういうのって、結婚ぽいし、家族っぽくない?」

帆音「確かに」

ベッドに2人並んで横になる帆音と橙和

帆音「このベット広いね」

橙和「あー、セミダブル買ったから。でかいのが良くて」

帆音「へぇ」
橙和「まさかこんな風に役に立つとは思わなかったけど」
帆音「あはは、そっか」

帆音「橙和」
橙和「うん」

帆音「さっき
一緒に暮らせて嬉しいって
言ってくれたの、嬉しかった」

橙和「うん」

帆音「なんかね、たとえ結婚したって、家族は、いつか離れてく…みたいなそんなイメージを持ってて」

橙和「うん」

帆音「だから頑張んなきゃなって思うし。一緒にいたいって思ってもらえるように。
でも今日私何もしてないし、
迷惑かけてる位なのに
橙和が一緒に暮らせて嬉しいって言ったのが、びっくりしたし、
なんでだろう、
すごい嬉しかったんだ…」

橙和は帆音の話に切ない表情を浮かべる

帆音「なんか、私ばっかり良い思いしちゃってるよね。橙和の曲のためにも、結婚ごっこ頑張んないとね。橙和は何したい…」

橙和が、突然帆音を寝たまま抱きしめる。

帆音「え…!橙和?!」

橙和「俺は、俺のしたいことは、帆音を甘やかしたい。別に頑張るとか、いらない。
俺は、帆音がいるだけでいい。
それだけで嬉しいから、
お礼に帆音をめちゃくちゃ甘やかしたい」

帆音「何、それ…」
抱きしめられてドキドキしながらも、
橙和の言葉に感動する帆音

橙和「信じてないでしょ」
帆音「え…」
橙和「帆音すぐ我慢するからなぁ。
望みも口にしないし。てか自分の気持ちにも鈍感だし…
ルールにしよ」

帆音「は?」
橙和「帆音は1日1個、わがまま言って。
毎日、俺が叶えるから」 

帆音「何言ってるの。
そんなの大変だし、
それに橙和に良いことないじゃん」

びよんと帆音のほっぺを優しくつねる橙和

帆音「いひゃい…」
橙和「わがまま言って、叶えてもらって、
嬉しかったら、笑ってよ。
それが俺の良いことだよ」

優しい声で、真剣な眼差しで、伝える橙和。

帆音は、つねられたほっぺに手を当てて、ドキドキする。
帆音(それって、なんか、まるで…)
帆音モノ:私のことが大切みたい…

帆音「分かった…。ありがと」
照れながら、赤い顔で声を絞り出す帆音。

帆音「橙和、の、歌、聴きたい」
橙和「え?」
帆音「わがまま」

橙和「ああ。俺の子守唄?」
帆音「うん…。橙和の声、安心するから」
照れながらも、自分の望みを伝える帆音。

橙和「了解。まかせて」

英語の歌を優しく口ずさむ橙和
まどろみながら橙和を見つめ、
歌に眠りを誘われる帆音

帆音モノ:その夜は、久しぶりに、ぐっすり眠れた夜だった

橙和と帆音が眠っている
帆音の手を握っている橙和