私は慌てた。ここから私が乗り込んでも勝てないし、教授や職員や警備の人を呼ぶ時間もない。どうしよう。

「そうだ、俺も礼節はわきまえちゃいるよ。特に女は守るべきモンだとわかってるからな?」

 カイの細い顎をくいっと持ち上げ、アンジャベルさんが目を眇めて笑う。
 怖い!

「お前が俺に対して謝罪し、生意気で申し訳ありませんでしたって手をついて謝れば許してやるよ」
「そうだそうだ。顔は可愛いんだから許してやるよ」
「よかったな? 今ならアンジャベルさんの愛人の一人になりたいって言ってもいいんだぜ」

 私は呆れて、思わず口を塞ぐ。

「うっわ野蛮……」

 貴族令息でも野蛮な人は野蛮なんだなと、なんだか少し夢が醒めたような気持ちになる。

「親にはお前が言わなきゃいいんだろ?」
「学園内のこういう話は、秘密裏になることも多いんだよ」

 しかももみ消しまで匂わせてるし。
 それに対して、カイは怯むことなくーーはあ、と溜息をついた。

「まともに女を口説くこともできませんの、あなた方は」
「チッ…… 生意気な女め。お前がそういう態度なら、こっちも考えがある。あの奨学金女がどうなってもいいんだな?」

 その時。カイが初めて狼狽えた声を出した。

「やめて。あのこは関係ないでしょう?!」
「お前一人なら手出しは難しいが、あいつなら何があっても……なあ?」
「卑怯よ」