私は一人、桶の中の水を演習室の横に設えられた「水魔法を使ったらココ! 絶対捨てること!」と書かれたシンクに流す。
 そして桶を前にして、私は何度も正確な詠唱を繰り返した。
 最初はくすぐったくて、カイのサポートなしの単独では最後まで詠唱が難しかったけれど、一人でやっていくうちにだんだん、水が自由に出せるようになった。
 まるで水の精霊が、体の中をはしゃぎまわり、任意の位置から飛び出してくるような感覚だ。
 なんだかちょっと気持ちがいい。

「最高……」

 これなら次の課題演習も乗り越えられそう!
 夢中になるあまりに垂れてきていた汗を拭い、私はにっこり微笑んだ。

「カイが見たらびっくりするよね。楽しみ、早く戻ってこないかなあ」

 そう口にした瞬間。
 私はハッと、違和感に気づいた。
 着替えに行ったカイが、ちっとも戻ってこない。

◇◇◇

「カイ! どこにいるの? カイ!」

 一番近くの女子更衣室にはいなかった。
 同じ階ーー三階にはいなさそうだ。キョロキョロとしていると、階段を登ってきた人とかちあう。

「あれ、あなたは……」
「奨学生の……」

 二人の女子学生と目が合い、私はすぐに話しかけようとしてーーこれじゃいけないと、一度立ち止まる。
 まずはしっかりとお辞儀をして、名乗るのが礼儀。そして同級生なら、過度な敬語は使わない。