ジキタリス寮には演習室はない。
 魔術の練習をするには、いつも講義を受けている棟、普通科棟の演習室を借りて行う決まりだ。

 普通科棟三階の、放課後の演習室にて。
 私は桶の前に立って手を肩の幅に開いて魔術の準備を整えた。

 その前には、仁王立ちで私を見守るカイの姿。

「はじめなさい」
「はい……『水よ』っ……!」

 私が水を念じると、手のひらからぽたぽたと水が落ちる。

「……弱いですわね」
「弱いよねえ……」
「独学で水をちゃんと出せるまで学んだのは立派ですわ。けれど魔術学園の実習についていくには少し厳しいかもしれませんわね」

 カイは私の魔術の成績を見る。
 私は座学の成績は悪くないのだけれど、魔術演習がほぼ赤点。
 そのためーーバランスが悪くてクラスの下から2番めの成績なのだ。

「フェリシア。あなたはまず正確な詠唱で正しく魔法を出す方法を学びなさい」
「正確な詠唱?」
「教科書では簡略詠唱しか教えないけれど、本当はもっと長いのよ」

 カイはおもむろに私の後ろに立つ。そして少し躊躇ったのち、こほん、と咳払いする。

「あの、先に言っておきますけれど、別にいやらしいつもりではありませんのよ」
「? う、うん」

 カイは私の両手に、後ろから指を絡ませる。

「ひゃあ」
「変な声をお出しにならないで。これは必要だからするのですよ」
「う、うん……」