前に出たのはアンジャベル・セリンセ。セリンセ侯爵の嫡男だ。
 癖のあるコーヒー色の髪に鍛え抜かれた体、堂々とした振る舞い。父と同じ魔術騎士を目指す迫力ある肉体を持つ学生だ。制服の胸板もパツンパツンで、他の細っこい男子学生と同じ制服を着ているとは思えない。ーー生地を変えてるのかな?

 アンジャベルさんは教授から渡された木片を持つと手を掲げ、魔力を込める。

「木よ!」と唱えれば、木片がさっと木の杖に変化し。
「炎よ!」と唱えれば、炎がボォっと飛び出し。
「土よ!」と唱えれば、炎を纏った木片が手のひらの中で土になる。
「金よ!」と唱えて土を払えば、土は金属粉となって舞い散り、
「水よ!」と言えば、舞い散った金属粉が水滴となり、パッと弾けた。

「おおお……」

 私も学生一同も、感嘆しながら盛大な拍手をする。
 木片一つから一言だけで、ここまで見事に全元素を扱える人は滅多にいない。彼はドヤ顔で「当然だぜ」と言わんばかりの顔をした。

「……では元素の扱い方はそれだけではない。」

 場の興奮に水をさすように教授が続け、彼はカイを見た。

「学籍番号C01番。応用を」
「かしこまりました」

 カイは颯爽と立ち上がり、壇上へと向かう。ドヤ顔していたアンジャベルさんが露骨に嫌な顔をする。

 カイはまっすぐに立つと、木片をそっと宙に投げる。そして手のひらをかざした。

「木よ金よーー」