「次は私をじろじろ見て、どうなさったの」
「カイって公爵令嬢だから、婚約者はいるでしょう? だからカイと結婚する人は幸せだなあって思ってたの」
「っ……!?」

 カイが顔を真っ赤にさせる。
 意外な反応で驚いた。だって、髪をかきあげて「当然ですわ!」って言うと思ってたから。

「照れるカイ初めて見た」
「っ……あなたって人は……」
「肌が白いから耳まで真っ赤になるの、可愛いねえ」

 にまにまとすると、カイはキッと私を睨む。
 いつものような迫力はなくて、ますます可愛く見える。
 (周りのテーブルの学生が「ひえええ」とか「うわああ」とか言ってるから、みんなには怖く見えるのかもしれない)
 カイは咳払いして、私の手元を厳しくさし示した。

「ほら! 手元がお留守ですわよ! タルトがこぼれそうですわ!」
「あっ! いけない!」
「全く。マナーレッスン、また一からやり直しですわ。店長! 新しいケーキをいただけるかしら」
「いいよ、今日はいくらでも食べていきなー」

 真っ赤になったカイの様子に、店長が苦笑いしながら答える。
 
「カイ、次は何をいただくの?」
「そうね……フェリシアはどうするの?」
「私は悩んでるんだ。チーズケーキと、王道ショートケーキで」
「じゃあシェアしましょう。……マナーの授業では、真似してはだめよ?」
「ありがとう!」

 そして。
 私たちは今日も寮の自室に帰るまで、仲良く放課後を過ごした。

「婚約者……か……」

 ーーカイがちょっとだけため息をついていたのに、私は気づいていなかった。