「いいえ。フェリシアの悩みですもの。話してくれて光栄だわ」
「ありがとう。ふふふ、私は幸せ者だなあ」
「……」

 私が笑顔になると、カイがぐっと辛そうな顔をした気がした。
 しかめ面で髪をかきあげてパスタを食べて、そして独り言のようにポツリと呟く。

「フェリシアはいい()なのに、こんな扱い、信じられない……」
「カイだけだよ〜、そんな風に言ってくれるの」

 私が感謝すると、カイはますます眉間に皺を寄せる。

「自己肯定感が低すぎでしてよ。淑女たるもの、怒るべき時は怒る。これは必要なことですわ」
「カイはいつも言うよね、私にもっと怒りなさいって」
「怒りも淑女レッスンの一つでしてよ」
「怒りかぁ〜」

 私はクルクルとパスタを巻き取りながら、怒るって難しいなあと思う。
 だってパスタは美味しいし、愚痴ってすっきりしたし、これ以上憤怒を燃やすのってなかなか難しい。

「ふんぬ」
「声に出しても怒れませんわよ」
「確かに」

 ぱく。私はパスタを食べる。美味しい。

「うーん……怒っても仕方ないしさ〜私にできることなんて、どんな時でも前向きになることだけだよ」

 私もパスタを食べて、そしてにっこり笑って見せた。
 そういう顔をさせてしまったのは申し訳ないけれど、カイが私の分まで怒ってくれるのを見ていると、私も少し、気持ちがスッと楽になる。だからそれでいいのだ。