ぬるい液体が髪とブラウスを濡らして、顔からぽたぽたとこぼれ落ちる。
 さらにガシャンと、目の前でコーヒーカップを落とし割られる。

「ああ、ごめんなさい。わざとではないのよ?」
「奨学金もらってるのに働かなきゃいけないなんて可哀想」
「パパの税金から養ってもらってるのに、足りないって言いたいのかしら?」

 声が笑っている。私は動けなくなった。
 笑顔が上手く作れる自信がなかったし、なんだか、心が硬くなってしまっていたのだ。

「大丈夫!?」

 店長さんが赤毛を揺らし、慌てて駆け寄ってくれる。

「チッ、あいつら、俺に見えない角度でなんてことを」

 ちょっとガラ悪く舌打ちしながら、店長さんは上着をかけてくれた。

「俺が片付けるから奥に……」
「ごめんなさい、すぐに着替えて戻ってきます」

 私たちを見て、くすくすと楽しそうにするご令嬢たち。
 店長さんが悲しいような、険しい顔をして箒を持ってくる。

 ーー入学して、二週間。私は貴族令嬢たちにいじめられていた。
 理由はいろいろあるのだろう。奨学生で目障りだから。