「どうして平気そうでいらっしゃるの、フェリシア。一大事ではありませんの」
「えへへ、カイ優しいね。すごく動揺してくれてる」
「そういう場合じゃありませんわッ!」

 黒いチョーカーに手を添え、青ざめた彼女の様子に、私は「優しいなあ」と呑気に思った。
 今日のパスタは王道トマトソースパスタだ。
 器用にクルクルとフォークで巻きながら、カイは声のトーンを落として尋ねてきた。

「一体どういうことですの。詳しく説明して頂かないと困りますわ」
「少し話し長くなっちゃうけど、いい?」
「当然ですわ。だって他ならぬあなたのお話ですもの」

 カイは険しい顔をして、身を乗り出して私の話に耳を傾ける。
 うーん、美人って険しい顔をしてもすっごく綺麗なんだなあ。

「……」
「何か話しなさいよ」
「あっごめん、カイに見惚れちゃってた」
「あなたねえ」
「えへへごめん。えーと、私、昨日実家から呼ばれて帰省したじゃない?」
「フェリシアに対して失礼なことしか言わない、あの愚かなご家族ね」
「結構バッサリいうよねえ、カイ」

 私はそれから、帰省した時の話をカイに話した。

◇◇◇

 私の実家はヴィルデイジー男爵家。
 莫大な富を築いた祖父の代から半ば無理やり王様に爵位を与えられた、いわば新興貴族だ。ちなみに爵位を押し付けられた理由は徴税のためとか。ひどい。
 そして父の長女として私は生まれた。