魔術学園は全寮制だ。
 私は平民・新興貴族出身の人々が集まったシェパーズパース寮の端、使用人用の部屋のあまりで寝起きしていた。奨学生用の部屋はここだ、とあてがわれていたのだから従うしかない。
 学園の裏手にあるいくつもの寮棟、その中でも一際目立つ白塗りの寮に連れて行かれる。

 私は慌てた。

「こ、ここジキタリス寮……ッ! キーリー・ジキタリス学長の名を冠した、一番高貴なご令嬢が集まる女子寮ですよね?!」
「そうよ。何が悪いの?」
「わわわ私には不相応です」
「不相応上等。それくらいの気概はお持ちなさいな、奨学生でしょう」
「つよい」

 彼女は堂々と大理石の床を鳴らして歩く。私は後ろからおどおどとついていく。
 半日授業の日の昼下がり、寮に帰る人もいないのか、廊下は私と彼女の貸切状態だ。
 虹色の光を乱反射させる銀髪をゆらゆらと揺らし、先を行く彼女は話した。

「あなた、貴族令嬢としての礼儀作法やマナーを学んでいないのでしょう?」
「……はい」

 私はしょげる。
 父は私にそういう勉強も一切させてくれなかったから。