【更新不定期】意味がわかると怖くない話

『そうそう、そこであの人がここに来て……いや、まだ殺しちゃダメだろ』

その会話が聞こえてきた瞬間、私は布団に潜り込んで頭まで布団をかぶる。

……まただ。

お隣さんが引っ越してきて約半年。

あれから毎日のようにこんな会話が聞こえてくる。

まさか、あの優しそうな人が犯罪者じゃないよね……?

いやいや、まさかね。

半年間、毎日自分にそう言い聞かせる。

『そうだ、ここでこの人を殺してしまうのはどうだろう!』

な、なんで、そんな簡単に人を殺そうとするんですか……っ?

隣人に届きはしない質問を心の中でなげかけた。

       + + +

「小林さん、大丈夫……?」

「え?」

定時になる十分前。

先輩がやっぱりカフェオレを持って私のデスクに来てくれる。

「最近ずっと眠たそうだし、上の空だよね……?」

「ほっ、ほんとですか!?」

会社てはちゃんとできていると思っていたから驚いて、思わずそう叫んでしまう。

「うん……何かあったなら聞くよ?なんでも相談に乗るし」

……優しい先輩。

でも、あのことを話したら先輩にも怖い思いさせちゃう……それだけは、嫌だ。

「大丈夫ですよ!最近ちょっとハマってしまったテレビ番組があって、つい遅くまで見てしまってて……」

「そうだったの?テレビは程々にね」

カフェオレをデスクに置いて、少し笑いながら自分のデスクに戻っていく。

カフェオレを飲もうと持ち上げると、ラベルに何かが書いてあるのを見つけた。

【いつも頑張ってて偉いよ!無理せずファイト!】

先輩……。

先輩の優しさに、少し涙が出てくる。

……よしっ、先輩のためにも、乗り越えてみせるぞ!

と言っても、お隣さんの意味深な会話を聞かないふりをするだけだけど。