「小林さん、いつも熱心に残業してくれてありがとね」
いつものようにもうほとんど誰もいない会社で残業していると、私の所属してる部署の先輩がそう声をかけてくれる。
この先輩は私がこの会社に入社した時に熱心に仕事を教えてくれた人で、その優しい性格から全員から頼りにされているちょっとした人気者。
「いえいえっ。私はまだまだ新米なので、残業しないと周りの人に追いつけないので!」
「そう?小林さん、飲み込みが早いから大丈夫だと思うけどね」
突然の褒め言葉に頬が緩みそうになるのを必死でこらえて、先輩に全力で頭を下げる。
「えっ、そうなんですか!ありがとうございます!でも、残業するって言うのはもう私の中では当たり前なので、やっぱりしていきます」
「そっかー、じゃあ、何か困ったことがあったらなんでも言ってね!」
持っていたカフェオレを私のデスクにおいて颯爽と去っていった先輩。
「ありがとうございます!」
今はそう言って頭を下げることしか出来なくて、いつか恩返しが出来たらな、なんて思った。
+ + +
「はぁ〜……疲れたぁ……」
あれから仕事に熱中してしまい、帰ってきたのは夜中の一時。
明日は日曜日で休みだから良かったけど、さすがにこの生活を平日にするのはきついかも……。
「お風呂が湧くまでテレビでも見ようかな……」
とは言っても、私は普段からテレビを見ることがないから、この時間に何がやっていて何が面白いかなんて知らなくて、適当にリモコンのボタンを押す。
ピンポーン
え?こんな時間に、誰……?
不審者だったりしたら嫌だから無視をしてみるけど、チャイムの音は懲りずに二度、三度と鳴る。
「あーもー、出ればいいんでしょ、出れば……」
そうブツブツ言いながらチェーンを外して、ドアを開ける。
「あっ、いらっしゃった!」
「はい?」
私の前にいたのは、三十代くらいの見覚えのない男性。
服装はスラックスにパーカーというラフな格好で、笑顔を絶やさないから、優しそうな人という印象が着く。
「すみません、こんな遅くに……僕、最近お隣に引っ越してきた深沢というもので、挨拶をしようとしてもいらっしゃらないことが多くて……」
「あぁ、すみません。私、月曜から土曜まで用事がない日は残業してて……朝も普通に家を出るし」
「大変ですね……あ、これ、もし良ければ。ちょっとしたものなんてますが」
そう言いながら手渡してきたのは、駅前の有名なお菓子屋さんの袋。
「えっ、い、いいんですかっ!?ここ、並ばないと買えないんじゃ……」
このお店は私が好きなお菓子屋さんではあるものの、とても人気なお店で、いつも整理券が配られているほど。
「大丈夫ですよ。僕の友達がそこで働いてて、少しだけなら融通が効くんです」
友達……いいなぁ……。
「では、僕はそろそろお暇しますね」
「あ、はい!わざわざありがとうございました」
「いえ、おやすみなさい」
やっぱり笑顔を絶やさずにそう言って帰っていった深沢さん。
優しそうな人が隣人さんで良かった……。
……しかし虚しくも、その“優しそうな人”に約一年悩まされることになる。
いつものようにもうほとんど誰もいない会社で残業していると、私の所属してる部署の先輩がそう声をかけてくれる。
この先輩は私がこの会社に入社した時に熱心に仕事を教えてくれた人で、その優しい性格から全員から頼りにされているちょっとした人気者。
「いえいえっ。私はまだまだ新米なので、残業しないと周りの人に追いつけないので!」
「そう?小林さん、飲み込みが早いから大丈夫だと思うけどね」
突然の褒め言葉に頬が緩みそうになるのを必死でこらえて、先輩に全力で頭を下げる。
「えっ、そうなんですか!ありがとうございます!でも、残業するって言うのはもう私の中では当たり前なので、やっぱりしていきます」
「そっかー、じゃあ、何か困ったことがあったらなんでも言ってね!」
持っていたカフェオレを私のデスクにおいて颯爽と去っていった先輩。
「ありがとうございます!」
今はそう言って頭を下げることしか出来なくて、いつか恩返しが出来たらな、なんて思った。
+ + +
「はぁ〜……疲れたぁ……」
あれから仕事に熱中してしまい、帰ってきたのは夜中の一時。
明日は日曜日で休みだから良かったけど、さすがにこの生活を平日にするのはきついかも……。
「お風呂が湧くまでテレビでも見ようかな……」
とは言っても、私は普段からテレビを見ることがないから、この時間に何がやっていて何が面白いかなんて知らなくて、適当にリモコンのボタンを押す。
ピンポーン
え?こんな時間に、誰……?
不審者だったりしたら嫌だから無視をしてみるけど、チャイムの音は懲りずに二度、三度と鳴る。
「あーもー、出ればいいんでしょ、出れば……」
そうブツブツ言いながらチェーンを外して、ドアを開ける。
「あっ、いらっしゃった!」
「はい?」
私の前にいたのは、三十代くらいの見覚えのない男性。
服装はスラックスにパーカーというラフな格好で、笑顔を絶やさないから、優しそうな人という印象が着く。
「すみません、こんな遅くに……僕、最近お隣に引っ越してきた深沢というもので、挨拶をしようとしてもいらっしゃらないことが多くて……」
「あぁ、すみません。私、月曜から土曜まで用事がない日は残業してて……朝も普通に家を出るし」
「大変ですね……あ、これ、もし良ければ。ちょっとしたものなんてますが」
そう言いながら手渡してきたのは、駅前の有名なお菓子屋さんの袋。
「えっ、い、いいんですかっ!?ここ、並ばないと買えないんじゃ……」
このお店は私が好きなお菓子屋さんではあるものの、とても人気なお店で、いつも整理券が配られているほど。
「大丈夫ですよ。僕の友達がそこで働いてて、少しだけなら融通が効くんです」
友達……いいなぁ……。
「では、僕はそろそろお暇しますね」
「あ、はい!わざわざありがとうございました」
「いえ、おやすみなさい」
やっぱり笑顔を絶やさずにそう言って帰っていった深沢さん。
優しそうな人が隣人さんで良かった……。
……しかし虚しくも、その“優しそうな人”に約一年悩まされることになる。



