●きよかのモノローグ → 懐石料亭・昼


童話の挿絵のようなタッチで王子と姫のシルエットが手を取り見つめ合う

きよか(子供の頃から夢見てた。いつかたったひとりの王子さまと運命的な恋をして、愛にあふれた結婚をするんだって)
(な・の・に!)

ひきつり笑いをするきよか(振袖姿)と無表情な千隼(スーツ)のアップ

きよか(なんでお見合いなんてさせられてるの!?)

料亭の室内で机を挟んで向かい合うきよかと千隼(+それぞれの祖父)を庭から遠景で映す。
カポーンとししおどしの音。

きよか(おかしい……おじいちゃんがおいしい伊勢海老を食べさせてくれるって言うから来たはずなのに)

きよかの脳内イメージでここまでの経緯をコミカルに再現。
おじいちゃん「きよか~じいじとごはんに行こう~」きよか「わーい」
→おじいちゃん「その前に着替えじゃ~」きよか「??」着物に着替えさせられるきよか
→千隼「はじめまして」きよか「だれ!!!????」千隼に対面させられてびっくり

向かいの席で固めの杯に口をつけている千隼。サラサラの黒髪。切れ長の目。きれいな所作。

きよか(い、いくら相手がキラキラのイケメンだからって)
(こんなのやってられるかー!)

きよか、横から女中さんに注がれた固めの杯を一気飲み

仲人「これにて宝生(ほうしょう)千隼(ちはや)さま、三澄(みすみ)きよかさまのご結納、ご婚約はつつがなく成立しました。おめでとうございます」
きよか「はい!?」
きよか祖父「お互いの家に年の近い男女が生まれたら結婚させようという約束をようやく果たせたのう! まーくん☆」
千隼祖父「うんうん! これで三澄家も宝生家も安泰だな! トシ坊☆」
きよか(えっ、お見合いどころか婚約しちゃったってこと!?)

驚くきよか(飲んだのが固めの杯だと知らなかった)と、相変わらず無表情な千隼。その横でイエーイとハイタッチする祖父ふたり。
きよかと千隼の祖父は幼馴染で大の仲良し。互いの子供(孫)を結婚させようと約束していた。

はしゃぐ祖父に千隼がちらりと視線を送る。

千隼「……これで終わり?」
千隼祖父「うむ! これでお前ときよかちゃんは晴れて夫婦♡だ!」
きよか祖父「正式な結婚はお互い18歳になったらだから、正確には婚約者♡だがの~」
千隼「ふうん」

結婚式をどうするかで盛り上がる祖父たちを後目に、千隼立ち上がる。

千隼「俺もう行くわ」
きよか「えっ!? でもまだ私たちひと言も……」

千隼、部屋の入口(ふすま)の前に立ち、きよかたちの方を振り返る。

千隼「じゃ」
きよか「ちょっと待……」

さっさといなくなる千隼。しばらくぽかんとしていたが急にハッと我に返るきよか。

きよか(最っっ低すぎ!!)

青空に響き渡るきよかの嘆き。



●きよかモノローグ → 学校、朝


きよか(宝生グループと言えば、高校生の私でも知っている大企業)
(私の婚約者(仮)はその宝生家の長男らしい)
(かたや三澄家は一年のほとんどを海外で過ごすパパ&ママと、ひとり娘の私、きよかの三人家族。おじいちゃんが田舎に広~い土地(ほぼ畑と山)を持ってることは知ってたけど……)
(まさか昔は政治家だったなんて知らなかったよ~!!)

『実は名家』と書かれた看板を背負い優雅に左うちわをあおぐ祖父の図。

きよか「寝られなかった……」

ぐったりした様子で通学するきよか。すこしウエーブがかったセミロング。制服はブレザー+プリーツスカート。かばんは自由なのでリュック。

きよか(まだ高2なのに婚約って……しかも来年18歳になったらそのまま結婚!? あの無愛想な人と!?)
(いかんいかん、気持ちを切り替えよう)

きよか、自分のクラスの教室の前でぴしゃりと頬を叩く。

きよか「おはよう!」

笑顔で教室の引き戸を開ける。
すると教室の隅で一部の女子がお通夜みたいにどよーんとした空気。

きよか「なっちゃん、どうしたの!?」
夏実「ああ、きよか……。今日は私たちの命日なの」
きよか「め、命日?」

クラスメイトで親友の夏実。ギャルっぽい見た目。明るい性格だが机に突っ伏して滝のような涙を流している。
その他、夏実同様に暗~い雰囲気のクラスメイト女子数名。

夏実「私たちの『氷の王子』が……結婚するって」
きよか「氷の王子? ああ、フィギュアスケート選手の……」
夏実「宝生くんはただのフィギュアスケーターじゃないっっ!!」

だんっ!と机を叩いて立ち上がる夏実。

夏実「神に愛されし人類の至宝! 銀盤の魔術師! 冷たい美貌と圧倒的な演技で世界を魅了する氷の王子!」

フィギュアスケートにあまり興味のないきよかに、「氷の王子」の素晴らしさを力説する夏実と、後ろで「プリンス♡」「トリプルアクセルして♡」と書かれたうちわを持ちながらうんうんとうなずいているクラスメイトたち。
引き気味のきよかに、夏実は持っていたスマートフォンの画面を突き付ける。ワイドショーの動画が流れている。「大スクープ!氷の王子結婚か!?」というテロップつき。

インタビュアー「宝生選手、今シーズンのプログラムに『ロミオとジュリエット』を選んだ理由は?」
千隼「……曲がいいから」
きよか(ん?)

スケートリンクでマイクを向けるインタビュアーと、淡々と受け答えする千隼。(お見合いの時とは違い、前髪を上げて後ろに流す髪型)
きよかは「あれ?この顔どこかで……?」と小首をかしげる。

インタビュアー「ずばり、宝生選手もロミオのように情熱的な恋をしたいと思いますか?」
千隼「そういうのはあんまり……」
きよか(んん!?)

千隼、インタビューに答えながらタオルで頭を拭く。

千隼「ていうか俺、結婚することになったんで」

千隼、後ろに流していた前髪が落ち、オフの姿(=きよかとお見合いした時の髪型)になる。

ナレーション「このように、宝生千隼選手は結婚間近であると明かし――」
きよか「あああああああああ!?」

きよか(宝生千隼――昨日会ったあいつじゃん!?)
夏実「どうしようきよかぁぁ氷の王子が~私の推しが結婚しちゃう〜!」

昨日の結納の席での千隼の顔を思い浮かべ(きよかの偏見で本物より意地悪そうな顔をしている)、驚きのあまり固まるきよか。
きよかに抱きついておいおいと泣く夏実。

夏実「推しのしあわせは祝わなきゃってわかってるんだけどお~」
きよか(どうしよう……いつもなっちゃんに動画とか見せられてたのに……実物に会っても全っっ然気付かなかった!!)

だらだらと大量の汗を流すきよか。
夏実にひっつかれたまま立ち尽くしていると、ガラッと教室前方の戸が開き担任の教師(男、30代)が入ってくる。

担任「おーいHR(ホームルーム)はじまるぞ~座れ座れ」

あわてて席につくきよかたち。きよかの席は一番後ろ、夏実の後ろ。

担任「今日はお前たちがあっと驚くビッグニュースがあるぞー!」
夏実「宝生くん結婚以上のビッグニュースなんてないよ……」

教卓に立ち、にこにこと生徒たちに話しかける担任。きよかの前の席で机に突っ伏してつぶやく夏実。

担任「転校生だ!」
千隼「どうも。宝生千隼です」

担任がじゃーんと両手でアピール。いつの間にか担任の隣に立っている千隼。前髪は下ろし、少し着崩した制服。ヘッドホンを首にかけている。無愛想。
クラス全員があんぐり口を開け、目が点になる。

担任「宝生は世界中から注目されているフィギュア選手で……って説明するまでもないか。いや~有名人が教え子だなんて鼻が高いな~。あ、席はあそこな」
千隼「はい」

千隼小さくうなずく。
そのまま机の列の間を通って一番うしろの席へ。(あまりにオーラがありすぎて顔から神々しいキラキラのエフェクトが出ている)
その一部始終をクラスメイト全員が無言で目で追う。
きよかの隣の席に座る千隼。口をあんぐり開けたままのきよか。

千隼「……よろしく」

机に頬杖をつき、隣のきよかにひと言だけ挨拶する千隼。相変わらずの無表情。

きよか(こんなことって……)

(こんなことってある!?!!?)

イス小さい……などと独り言を言いながら己の席でくつろぎはじめる千隼を、呆然と見ているきよか。

「HR後」千隼のキラキラオーラに圧倒されみんな遠巻きに見ているだけ
「1時間目終了後」千隼の席の周りにぽつぽつと人が集まりはじめる
「2時間目終了後」次第に人が増える
「3時間目終了後」千隼が見えないくらいの人だかりになる
「昼休み」見かねたきよかが千隼の手を引っ張ってダッシュで逃げ出す、までを一連の絵でコミカルに説明。



●学校の屋上、昼休み

バタン!と勢いよく扉を開け屋上へ出るきよか。
ぜえぜえと息をするきよかの後ろで平然と立っている千隼。

きよか「さ、さすがアスリート……息切れしないんだね……」
千隼「そりゃあ、まあ」
きよか「昨日さっさと帰っちゃったのは、練習があったから?」
千隼「(こくりとうなずく)夜からインタビューがあったから、その前になるべく多く練習時間取りたくて」
きよか(例の爆弾(けっこん)発言の……)

きよか、思い立って拳を握り、千隼と向かい合う。

きよか「あ、あのね宝生くん。私たちの婚約、今からなしにできないかな?」
千隼「?」
きよか「だって今、令和だよ!? 私たちの将来をおじいちゃんたちの都合で勝手に決められるなんて、ぜったいおかしいよ!」
千隼「別に。政略結婚なんて、昔も今もありふれてる」
きよか「そりゃあ宝生みたいな立派なおうちはそうかもしれないけど……!」
千隼「俺はあんたとの結婚をやめるつもりはない」

想定外の答えに、かあっと顔を赤らめるきよか。

きよか「な……なんで……っ」
千隼「条件」

ピュアな反応を見せるきよかとは対照的に、相変わらずクールなまま、冷たい印象すら与える千隼。

千隼「それがスケートを続ける条件だから」

ふたりの間に風が吹き、髪やスカートを揺らす。

千隼「俺は成人したら宝生グループを継がなきゃいけない。でも、それじゃあスケートどころじゃなくなるから、代わりに従弟に継がせてほしいって頼んだ。そしたら、じいちゃんの決めた相手――つまりあんたと結婚するならいいって言うから」
きよか「……何よそれ……」

うつむいていたきよか、涙目で千隼をにらみつける。

きよか「つまり、自由になりたいから好きでもない私と結婚するってこと!?」
千隼「それは……」

千隼、無言で視線を横へ逸らして、しばらくしてからまたきよかを見る。

千隼「まあ、そう」
きよか(あっさり認めた!)
(正直すぎてかえって責めづらい……!)

うぐぐ、と言葉に詰まるきよか。

きよか(でも、だったらなおさら)
(わたしも正直に伝えないと)

きよか、握っていた拳をほどき、開いた手のひらを身体の前で揃える。

きよか「ごめんなさい。私、あなたとは結婚できません」

まっすぐ腰を折り、丁寧なお辞儀をするきよか。少し驚いた表情の千隼。

きよか「宝生くんがどんなにかっこよくて、お金持ちで、有名人でも、私は愛のない結婚はできません。ちゃんと恋をして、愛し合った人と結婚したいから」
千隼「ふうん……」

頭を下げるきよかを見下ろしている千隼。

千隼「恋をした相手となら結婚してもいいってこと?」
きよか「……そ、そうだけど……」

きよか、少しいじけた表情で顔を上げる(千隼に呆れられてバカにされているのだと思い込んで)。
恥ずかしさもあり大声でまくしたてる。

きよか「でも、ただの恋じゃダメ。世界一ロマンティックで熱〜い恋じゃないといやなの!」
千隼「そう。わかった。……だったら」

千隼、不意にきよかの右手を取る。そのまま指にキス。

千隼「俺としよう? 世界一熱い恋」