席に戻った男は、ジャケットの内ポケットから何かを取り出した、それでも女は顔を上げようとしなかった、


その動作を見逃さなかったマスターは、何の注文も受けていないのに冷蔵庫からフルーツを取り出しカットし始める。



「いまさら取り消されても困る」

男の意外な言葉に顔を上げた女の瞳に、鮮やかな赤色の薔薇の花束が映った。

驚いた女の頬に涙が溢れる、


差し出された薔薇の花束に、机の上に置かれた小さな箱は隠されていた、

(やるじゃないか、)

女が受け取った花束を愛おしそうに胸に抱きかかえた時、
ようやくテーブルの上に置かれた小箱に気づいた、、

「もう指輪を買ってしまったんだ」
男はゆっくり手を伸ばし蓋を開けた、




「俺と結婚してくれないか」


(やられたな、、)


別れ話は何度も経験したが、この店でプロポーズは初めてだった、
あの男のふてぶてしい態度は、女に機先を制されて不貞腐れていたからか、日をあらためてプロポーズの計画を立てていたのだろう、
それが少し早くなっただけの話だ、



マスターはパフェに刺した花火に火を入れると、ゆっくりと男女のテーブルに運んだ、

「私からのお祝いです、二人で仲良くどうぞ」


花火に煌めく彼女の潤んだ瞳と満面の笑顔が、天井に吊るされたグラスに星のように散らばっていた。


        完