マスターは苦笑いの笑みを浮かべ小さく首を振った、どう転んでも結果は変わらないだろう、
一見モテそうな目鼻立ちの男は、女に固執しないタイプに見えたからだ。


別れ話に興味本位なギャラリーはいない方がいい、

頼まれたわけではないが、マスターは店の入り口の看板をclosedに、
照明を半分落として落ち着いたジャズの名曲を流した、

慰めのつもりではない、他に客はいないし閉店時間も迫っていたからだ、

そうして舞台を整え、もう一度カフェラテを作り直して、一人取り残された女のテーブルに歩み寄り声をかける。

「淹れ直しましたので、温かいうちにどうぞ」

女は顔を上げることもなく「ありがとうございます」とほとんど声にならないお礼を述べた。



気まずい雰囲気に包まれた店内、家路を急くクラクションが遠く響いた。

この場所だけが捨て置かれたように、時の流れがやけに遅く感じる、

カウンター相手に鼓を打つ指先が、マスターの苛立ちを表していた、


(遅い、まだか……)



やがて店に戻った男の手には抱えきれないほどの薔薇の花束があった。

マスターの口元が弛んだ、

(そういうこともあるか……)


二人の行く末を見守るように、マスターは再びグラスを磨き始めた、

一点の曇りもなく二人の未来が見渡せますように。