桜の季節。
薄桃色の花びらが1枚、また1枚とひらひら揺れながら舞っていく。

紺色の春物スーツに身を包み、この田舎には少し似つかわしくない大きなビルを見上げる。

わたし、今日からここで、お勤めするんだ。
あたらしい人生が始まるんだ。

谷原萌香、25歳。新卒。
骨格ウェーブのブルベ冬。
華奢な手首にはシャンパンピンクの小ぶりな腕時計が静かに時を刻んでいる。

辞令をもらい入庁式会場をあとにすると、挨拶に周り、仕事内容を教わる。
あっという間に終業を知らせる鐘が鳴り、新規採用職員のための歓迎会が開かれる。

100人弱の同期たちは、そわそわしながら円卓に座る。
美味しそうな料理が並び、乾杯の合図とともに食事会が始まる。
先輩職員の話を聞きながら箸を進めていると、あっという間に出された食事は全てお腹の中へ……。

…足りないな。ラーメンでも食べて帰ろうかな。

ふと横の円卓を見ると、半分以上残しているお皿が気になった。

そのお皿の主は、栗色の髪、ハーフ顔。
絵画の天使みたいな人だった。

…ふうん。綺麗な人はご飯全部食べないのが当たり前なのかな…
って!先輩が企画してくれた会で、先輩が用意した食事残して帰るって…肝座りすぎ!

漫画のような百面相をしながら、萌香は初日を終えた。