「……そんな……」

 私は頭をかかえた。それってちっとも安心できない。それじゃあ帰ったらまた、絶対四面楚歌だよ。ああ、帰りたくない。

「何だよ、その顔。もう、嫌だとかなしだぞ。きのう、OKしたよな。辰巳に伝えたら喜んでた。お前のこと可愛がっていたからな。さっそく引き継ぎすると言ってたぞ」

「実は先ほど辰巳さんから直接電話をもらいました。総帥秘書の新藤さんが大変だそうですね」

「そうなんだ。父も辰巳がいて実は助かってるだろう。香月お前……今日の夜、ちょっと食事しないか」

「え?」

「お前について知っておきたいこともあるし、親睦を兼ねて奢ってやるよ」

 ニヤリと笑う。何なのこれ?まあ、いいか。

「美味しいものを奢って頂けるんでしょうか?」

「俺は釣った魚にもエサをやる優しい上司なんだ。その代わり、店はお前が探しておけ」