涙をのんで専務と別れた。

「香月……君にあちらから戻ったら頼みたいことがあるから、そのつもりでいて欲しい」

 眼をまん丸くして俺を見た彼女は、言っていることの意味の重大さをちっとも理解していない。

 いつもの綺麗な笑顔で頷いて俺を送り出した。

 絶対に俺のものにする。

 その日俺は新藤と辰巳に、日本へ戻ってきたら香月を秘書にするので、総会後決して他の役員にやるなと厳命した。

 ふたりは息をのんで驚いていた。そして、第一声。無理でしょうと頭を左右に振った。

 まあ、そう言うだろうと思った。だが、帰ってきたら全てを覆す。

 とにかく香月を守れと命令した。ふたりは本気にしていない。俺を見て呆れていた。

 それがまさか……彼女を守るというのが、神奈川支社への左遷になるとは思いもしなかった。