財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す


 すると、後から給湯室へなぜか真紀が入ってきた。

「……あら、黒沢さん。こんなところにおられたんですか?先ほど辰巳さんが探しておられましたよ」

「え、本当に?わ、わかったわ……」

 辰巳さんは男性秘書で御曹司崇さんの専属秘書だ。彼は総帥秘書である新藤秘書室長に次ぐ権力の持ち主。彼女は飲んでいたコーヒーをおいて出て行った。その後ろ姿にあっかんべーをしている真紀。私は苦笑い。

「真紀。ありがとう。本当に辰巳さん呼んでたの?」

「きっと今頃怒られてるかもね。なんか書類が違っていたらしいわよ。少しは怒られるといいのよ。彼女って本当に態度が大きい。担当の瀬川常務が一番偉いかのように振る舞うのよね。総帥に可愛がられてるからって勘違いも甚だしい」

「そうね。秘書課は彼女の縄張りっていうことなんじゃないかしらね」

「確かに彼女はお嬢様で特別なんでしょ。彼女の取り巻きがあんなにいるなんてここへ来てびっくりしたよ。彼女曰く、私達は営業部隊から常務についてきた成り上がりなんですって。否定はしないけど、正直お嬢様ってああいう人ばかりなのかと偏見を抱きそうになる」