財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す


 彼女は私をじっと見ながら壁にもたれてコーヒーを立ち飲みしている。

 私の一年上の先輩だが、系列銀行頭取のお嬢様。総帥が実は目をかけていると本当か知らないが陰で噂がある。

 つまり、御曹司のお相手候補の一人ということだろう。そして、彼女自身も崇さんが大好きなのを隠さない。

「そうよ。崇さんは急に来たの?」

「そうですね」

「そういえばあなた、斉藤君とはどうなの?」

 斉藤君とは私の交際相手の斉藤伸吾のこと。彼も秘書課勤務。黒沢さんは伸吾と同期で親しいし、私のことも聞いているだろう。意地悪そうな目が輝いている。

 彼に告白されて付き合いだしてまだ半年だが、すでにギクシャクしているのを知っている。ワザと聞いてきたんだとわかった。