財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す


 嫌な予感。目尻が下がってる。こういう目をするときって、辰巳さんが私に何か無理矢理頼み事するときだ。

 以前、この目に頼まれて崇さんの秘書も数日代わってあげたことがある。どうしても辰巳さんが総帥に頼まれて抜けられない仕事が入り、しかも専務が出張中だった。

 何も彼の秘書なんて、やりたがる他の秘書は大勢いる。それなのにこの目で拝まれて、先輩だったし断れなかった。みんなから妬まれるは、御曹司は扱いづらく大変だったのだ。

 噂通り御曹司は無愛想で感情が読めなかった。そしてスケジュールを突然変更するし、顔色が読めないからわからないことを聞きづらい。責任は伴うし、緊張して疲れて大変だった。ああいうのはもう二度とごめんだ。

「……いやです……」

「おい、香月。それもお前を助けるためなんだよ」

「……だって……」

 目の前で両手を合わせて頭を下げている。一体何なのよ!辰巳さんは小さい声で言う。