財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す


「香月、こんなことになるまで助けられなくて本当にすまない。でもまさかお前が、俺にひとことの相談もなく退職願を出すとは思わなかったぞ」

 しょうがない……四面楚歌だった。私はとても扱いづらい人間になったんだと思う。

 元から黒沢さん達とはあまりうまくいっていなかったし、総帥の後押しもあり、彼女のついていた役員の天下になった今、私を庇ってくれていた人は辰巳さん以外いなくなった。

「実は昨日帰り際に、お前を神奈川支社へ転勤させられないかと新藤さんと相談して、彼に総帥へ直接提案してもらった」

 今、なんて言った?転勤?しかも神奈川支社って……。

「辰巳さん、無理しないでいいです。私、ここにはもはや1ミリも未練はありません」

「本部に未練がないのはわかるよ。今は特にいたくないだろ。だが、支社なら人間関係も変わる。それにだな、新藤さんとも話していたんだが……できればあちらでちょっとやってきて欲しいことがあるんだよ」