「お前、このまま秘書課にいられると思ってんのか?辰巳さんだって結局、あっち側だろ」
「ええ、そうかもね。でも今となっては、もうどうでもいいことだわ」
私は彼よりも先にバッグとコートを持つと、席を立った。伸吾はびっくりしている。馬鹿馬鹿しい。もっと早く私から別れたらよかった。
秘書課の先輩だし、私からふったら何をされるかわからないと思ったから耐えていたけど、今思えばそんな自分に嫌気がさす。
付き合いはじめの頃の彼はどこへ行ってしまったんだろう。もはや同一人物とは思えない変わり様だ。私が辛いときに慰めるどころか、追い打ちをかけるような人になってしまった。
一年ほど前、私は本部秘書課へ異動して親しい人もいなかった。真紀もまだいなかったし、緊張感と重責で吐き気がするほど辛かった。辰巳さんもいたが、彼は忙しくてそれどころではなかった。
そんなある日、秘書課の先輩で優しい言葉をかけてきた人がいた。それが伸吾だった。
精神的に弱くなっていた私は、今思えば彼の手管にすぐに堕ちてしまった。最初はそれでも大切にしてくれた。



