財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す


 週末、伸吾から久しぶりに誘われた。いつもの店で待ち合わせたが、待っていた彼の様子がすでに違っていた。

「菜々遅いぞ。お前、雑用しかやることないくせに何してたんだ?」

「ごめんなさい。あなたは忙しいの?あなたも誰にもつかなかったじゃない」

 総会後、彼も新しい役員を指名されていなかった。彼が前についていた役員は総会後退任したのだ。

「ああ、俺はお前とは違うんだよ。もしかすると総帥の秘書の一人になるかもしれないんだ」

 私は驚いて得意満面の彼の顔を見た。

「総帥秘書の新藤さんが少し大変そうだから手伝おうと思ってね。来期の役員秘書からはずしてもらってそっちをやりたいと立候補したんだ。黒沢にも推薦してもらうから決まるかもな」

 呆れて開いた口が……やっぱりそういう人だったのね。

 もしかして、私を誘って交際したのも出世欲?いずれ御曹司のブレーンとなるだろうと言われていた役員の筆頭である日傘専務。私はその人の秘書だったから、あの時優しくしてくれたのは間違いない。