御曹司のことを専務に言ったら、きっと大切な用事なんだろうと笑顔で言い、午前中のスケジュールキャンセルなどを頼まれた。急に目が回るほど忙しくなった。

 御曹司のために専務から捜してくるよう頼まれたファイルを両手で抱えて、秘書室から出たところで同期に声をかけられた。

「菜々、何でそんな急いでるの?今日は日傘専務、確か午前中は営業部で会議だって、昨日言ってたじゃん」

 半年前に四階から担当常務と一緒にこちらへ移ってきた同期の住谷真紀。私も最初は同じ四階で実務をしていた。

 そのときは部署が違うので接点がなく、ほとんど話したことがなかったが、彼女がここへ来てから話すようになり、とても親しくなった。

 そう、私は日傘専務理事の秘書をしている。すでに彼の秘書になって三年くらいが過ぎた。

 私の担当部署の役員になった日傘取締役の秘書を頼まれたのが始まりだ。

 日傘さんが取締役になったとき役員室勤務となった。それに伴い、一緒に上の階へ引っ越してきたのだ。