「御影さん……」
会場から出てすぐにわたしは足を止めて、彼の名前を呼んだ。
「泣き出すまであと3秒ってとこ?」
なんて、振り向いた彼は呆れたように小さく笑いながら予測通りわたしの頬を伝った透明な雫を親指で優しく拭ってくれた。
普段は意地悪なのに、肝心な時は優しく守ってくれる。
こんな人……好きにならないほうがおかしいじゃん。
「すみません……せっかく選んでもらったドレス、汚しちゃって……お金は払うので……!」
「いらねえよ、バカ」
「でも……」
「別にドレスなんていくらでも選んでやるから」
御影さんがそう言ってくれるのはすごく嬉しいけど、罪悪感は消えてくれない。
だって、これ絶対高いもん。
「じゃあ、代わりにお前のことちょーだい」
「……へ?」
わたしのことをちょうだいってどういう意味?
「まあ、拒否権とかないけど」
そう言うと、再びわたしの手を引いてエレベーターへと乗り込んだ。



