家族を失ってからこんなふうに誰かに守ってもらったことなんて一度もなかった。
親戚からは厄介者扱いされて、高校入学と同時に家から追い出されてクラブでもママ以外はみんなに嫌がらせをされて。
わたしの居場所なんてどこにもなかったのに。
「それでもいいならやれよ」
光の宿っていない漆黒が怖いくらい三日月のように細められる。
その微笑みはまるで悪魔のようで、きっとみんな息を呑みながら彼を見つめている。
そんなみんなの視線なんて気にすることもなく、わたしの腕を掴み、ステージの階段を下りていく御影さん。
どうして。
どうして御影さんはわたしに優しい言葉をくれるの?
どうして、わたしのことを守ってくれるの?
わたしのことなんか好きじゃないくせに。
そんなことされるたびにわたしの心は淡い期待を抱いてしまう。
いつか、御影さんがわたしを好きって言ってくれるんじゃないかな、愛してくれるんじゃないかなって。
そんなの身分が違いすぎて図々しいにもほどがあるのに。



