だって、あまりにもわたしが知っている“笑顔”というものからはかけ離れているように感じたから。
この人に近づいてはいけない、と心の中で警告音が鳴り響く。
幸い、すぐに他の所へ行ってしまったからよかったものの、あの一瞬だけでも瞳の奥にあるどこまでも深い闇へ誘われてしまうかと思った。
今も忘れられないほどの衝撃を受けたあの日から月日が経ち、わたしは18歳で向こうは20歳くらい。
きっと、中小企業の社長の娘なんて覚えていないだろうから万が一、顔を合わせることがあっても大丈夫。
まだ当時小学生とかだったし。
なんて、呑気なことを考えながら食器を洗う。
「いらっしゃいませ、御影様」
ママの凛とした声が裏まで聞こえてきて、彼がやってきたことを知る。
20歳に成長した御影様は小学生の頃よりもかっこよくなっているんだろうなぁ。



