今宵、甘い影に誘われて



「それは失礼いたしました……!朝見優生と申します……!」


「もうお前は御影だろ」


自分の部屋からそう言いながら出てきたのは御影さんだった。

帰ってたんだ。
仕事で遅いのかと思ってた。


「あ、ほんとですね」


言われてみれば、彼と結婚したわたしはもう御影の姓を名乗らなくちゃダメなんだ。


「無事に帰ってこれてよかったな。その辺で野垂れ死んでるかと思った」


「な、なんてこと言うんですか!」


「お前が俺の送迎を断るからだ」


「別に毎日送迎なんていらないです!もう道も覚えましたし」


「ダメだ。明日からは一人で帰るのは禁止。俺の言うことが聞けないの?」



深い闇の染まった瞳がじっとわたしを見る。

思わず、恐怖で足が竦む。

逆うことは絶対に許されない、と目で言われているような気持ちになる。


「わ、わかりました……」


だから、わたしは到底反論なんてできなかった。