琉世さんと結婚してから1ヶ月ほどが経った何気ない土曜日。
敬語も外れ“琉世さん”と名前で呼ぶのもだいぶ慣れてきた。
さすがに本名を知らない人の前では“御影さん”と呼んでいるけど。
琉世さんによると、本名を知っているのはほんの一握りでご両親と柴田さんくらいだそう。
あとは偽名の名前を使っているから学校が同じ出身でも彼の本当の名前は知られていないらしい。
御影家の人間は外部から狙われていることがあるため、昔からそういうふうに身を守るために偽って生きてきたのだと言っていた。
トップの世界で生きる人たちも大変だなあ、と思いながら、リビングに行くと用があったのか柴田さんいた。
「おはようございます。優生ちゃん」
わたしに気が付いた柴田さんがにっこりと微笑んで挨拶をしてくれて「おはようございます」と返した。
すると、珍しく後ろから琉世さんが眠そうにあくびをしながら歩いてきた。