大きなクリっとした目に、丸い顔、少し半開きの唇…
可愛い…
中学一年の春、初めて塾のドアを開けると目に飛び込んできた1番前に座っていた女の子はシャーペンのノック部分を顎に当て2回頭を上下に揺らして芯を出していた。
ショートカットの両サイドを耳にかけ思い出した表情で下を向き問題集に書き込んでいた。
20時から始まる授業の30分前、生徒は10人ほど後ろで話している子もちらほらいる中、俺はあの子に吸い寄せられるように「隣、座ってもいい?」と話しかけていた。
少しびっくりした目でコクンと頷くと席に座った。
「俺、鶴岡雅人(つるおかまさと)よろしく」
「よ、よろしく?」
疑問形で首を傾げながら返事が返ってきた。
ん?よろしくっておかしいのかな、まあいいや
「あっ!」
ん?何だ?
「藤原立夏(ふじわらりっか)です」
あー、名前を言ってくれたのか、俺が名乗ったしな、でも勉強してるのに邪魔になるし、それからは話すのをやめた。
市内中心部の駅近くにある進学塾に中学一年から通い始めた。
月、水、金曜の週3回20時から22時までみっちり勉強、部活もしている俺は結構きついけど、行きたい高校があるために少し遠いこの塾を選んだ。
今日は母親の車で来たが次からは電車で通うことになる。