カフェ・ローデンはロンドンにある。
11月も半ばになるとロンドンはかなり寒くなる。
私は白い息を吐きながらカフェへの道を急いでいた。
―カランカランカラン―
耳に心地良い鐘の音を鳴らしながら私はカフェの扉を開けた。
「ミスター・ローデン、いつもの頂戴。」
私はカウンターに座るなり、カフェの店主に話しかけた。
「ロイヤルミルクティーだね。」
白髪がちらほら見える店主は見事な手際でロイヤルミルクティーをいれる。
「今日は奥さんは?」
「ヘレナかい?」
「体の調子悪いの?」
「だいぶ寒くなったからね、傷が痛むみたいだよ」
「そう…」
ため息を吐きながら、私は鞄から本を取り出した。
本の作者はヘレナ・ローデン。
カフェの店主、ジョセフ・ローデンの奥さんであり先ほどの会話に出てきた女性だ。
「ローザ、ロイヤルミルクティーだよ」
ジョセフはミルクティーを出しながら私の隣に座った。
「ありがとう」
私は出されたカップに口をつけた。
「熱っ!!」
ガチャンと音を立てて置いたカップからロイヤルミルクティーが溢れた。
ジョセフは急いでクロスをとりだした。
「ローザ、いつもは何分も置くのに…」
ジョセフは苦笑いで私を見た。
「ご免なさい。」
「ローザ?」
「本に夢中になってた…」
苦笑いのままのジョセフに私は苦笑いで返した。
ふと目にした時計は18時を指していた。
「あぁ、もうこんな時間。ジョセフ、仕事に行かなきゃ。また明日!!」
私は代金をカウンターに置き店を出ようとした。
「ローザ、これを…」
ジョセフから渡されたのはサンドウィッチだった。
「いつもありがとう。」
私は紙袋を受け取ると走り出した。
「今日、劇場に友人がいくから!」
後ろから聞こえてきたジョセフの声に私は振り返った。
「じゃあ、うんとサービスするわ!」
私は大きく手を降るとジョセフに背を向け、今度こそ本当に走り出した。
降り始めたロンドンの雨が私のコートを濡らしていた。