翌日以降、秋山は今までと態度を急変させた。

「おはよう、春川」
「あ、おはよう」
教室に入ってきた私に、満面の笑みで挨拶をしてきた秋山に私は昨日のことも忘れてびっくりした。
そして、びっくりしたのは私だけではなくて、冬海さんたちもだったようで、秋山が挨拶した途端、ひそひそとこちらをみながら何かを話し出していた。

「今日も寒かったなー」
「うん。寒かったね」
「春川ん家って学校から近いんだっけ?」
「15分くらいかな? 東町の方だよ」
「あー小学校も東小だったもんな」
「秋山はどこだっけ?」
「俺は西町だよ。逆方向だな」
用事がある訳では無い他愛もない会話をすることをクラスメイトとすること自体が久しぶりで、それだけで嬉しかった。
「数学の宿題してきた?」
「うん」
「ちょっとさ、分からないとこあって教えてよ」
「あ、うん。私で分かるようなら」
一時間目の数学のノートを開いて、今日の宿題を見せあっているといつもは長い始業のチャイムまでがすごく早く感じた。

そんな風に話すことが増えてくると、私は少しずつ秋山と話すことが楽しみになってきていた。
学校に行くことが楽しみだなんていつ以来なんだろう。

そうして3日が過ぎた頃、掃除当番中にそれは起こった。
その日は女子トイレの掃除をしていて、冬海さんたちもサボりながらもトイレ場所には来ていた。
私は黙々と掃除をある程度終わらせて用具を全て片付けた。

「春川さんさー」
掃除が終わったことを確認した冬海さんと穂高さんは、刺々しい声で私に話しかけてきた。
「秋山といつのまに仲良くなったの?」
口は弧を描いていたけれど、目は全く笑ってなかった。

これは、事態は悪化してるんじゃないか。
そんなことが脳裏によぎったけど、この場ではもうそんなことどうでもよくて。

「え、と、さいきん」
「なんで? まさか秋山のこと好きとかないよね?」
「す、すきじゃないよ」
ずいずいと近寄ってこられて、とんとトイレの個室のドアに背をつける。
「それならいいけど。まあ秋山と春川さんなんて釣り合うわけないしね」
「そうそう。早苗くらいじゃないと秋山とは似合わないよ」
「やだー。恥ずかしいこといわないでよ」
早苗、とは冬海さんの名前だ。
冬海さんの周りは、冬海さんをこんな風にもちあげて生活している。
「もしかして秋山、春川さんに同情して声掛けてるんじゃない? 春川さん、1人だし」
「あ、それはあるかも。秋山って結構優しいとこあるんだよね」
「それなら春川さん、うちらと友達になればいんじゃん?」
「そしたら秋山も声掛けてこなくなるもんね。さすが早苗、ナイスアイデア」
話は思わぬ方向に向かって、冬海さんと穂高さんが盛り上がる。
「じゃあ今日からよろしくね、実咲」
「え、あ、うん」
冬海さんに満面の笑みを突然距離を詰められて、私は苦笑いを返すしかなかった。