「俺と友達にならない?」

「……は?」

提案された内容の意味が分からなくてたぶん間抜けな顔になった。
秋山は私の様子を特に気にした様子もなく、背伸びをして欠伸をする。

「トモダチにならないかっていったの」
「なんで?」
「今の状況変えたくないの?」
「そりゃ、変えたいけど……」
「冬海ってたぶん俺の事好きだよね」
「え、あ、どう、かな……?」
さすがに本人の意思関係なく気持ちを伝えることは良心が咎めた。
「何となく気付いてるよ。俺は好きじゃないけど」
「それでなんでわたしと友達に?」
「たぶん、俺が仲良くしだしたら嫌われたくないからやめるよ、いじめ」
「やめても、秋山のこと諦めないでしょ?」
私には利点があるかもしれないけど、秋山には利点はないんじゃないか。
「俺のメリットはここから。夏村さん、紹介してくれない?」
「……なっちゃん?」
思いがけない名前がでてきて、私は目を見開いた。


なっちゃんこと夏村彩月は小学校からの友達だ。
一年生は同じクラスで仲良くしてたけど、二年ではクラスが一組と四組でバラバラになったので接点もなくて最近はほとんど話せていない。
なっちゃんは明るく社交的でとても優しい素敵な女の子だ。

「うん。ちょっと気になってるんだよね。春川、仲良かったでしょ?」
「まあ、一応……」
「夏村さんと俺を繋げてよ。それが俺のメリット」

なっちゃんを紹介すればもしかしていじめがなくなるかも?
でもそれって逆に言えばなんであいつが秋山と仲良くしてるんだって余計に事態が悪化する可能性だってある。

「今のまま状況が好転するなんて思ってんの?」
秋山の言葉がザクリと私の胸を切りつける。
「あと、三ヶ月の我慢だし……」
「来年もあいつらと一緒のクラスになったら一年は続くよ」
どこかで気づいていて見て見ぬふりをしていた可能性を指摘されて、私はぐうの音もでなかった。
冬海さんたちが諦めてくれるか、それともクラスが変わって雰囲気が変われば、なんてただ状況に身を任せている私を秋山は見透かしてる。
「どうせ変わらないなら、少しでも変わる可能性にかけてみてもいいんじゃない?」
「……そんなになっちゃんと繋げてほしいの? 他の人に頼めばいいのに」
素直に申し出を受ける気持ちになれなくて、邪な気持ちを指摘すると秋山は照れもなく頷いた。
「他の人だと借りを作っちゃうだろ。その点、春川だとwin-winだよね。友達になるんだったら俺、春川のこと一人にしないよ」

一人にしないよ。
その言葉は心を揺さぶられた。

学校も休めない状況で、地獄のような毎日が。
たった一人、話せる人がクラスにいるだけでどれだけ心強くなるんだろう。
もうだれも、私と必要最低限の会話しかしてくれないんだから。

「……わかった。でもキューピットみたいなことはできないよ」
「いいよ。自力で頑張るから」
秋山はさらりといって、「んじゃ、交渉成立ね」と続ける。
席を立ち上がった秋山は、私に手を差し出した。
「よろしくね、春川」
「……よろしくお願いします」
私はその手に自分の手を重ねた。

友達になろう、なんていって友達になったの初めてだな、なんて他人事のように思った。