私はそっと秋山が辛くないのか心配になってそっと横を見ると、秋山は真顔だった。
視線を感じたらしい秋山は私をじろりと睨む。

「変な気、遣わなくていいって」
「あ、ごめん」
「強がりじゃなくてほんとに平気だから」
「そっか」

そんな簡単に割り切れるものでもない気がするけど、秋山がそういうなら強くいうまい。

それにしても……。周りを見渡してもカップルばかりだ。クリスマスだから当然なんだろうけど。

「とりあえず入ろうぜ」
「うん」
映画館の中に入って席に着く。
並んで座ったが、いつもの教室の隣とはまた違う距離感にどきどきする。

……まって、そこまで考えてなかった。
すぐ手を伸ばせば触れることが出来る距離。

暗くなって映画が始まっても、私は集中できなかった。
秋山が気になってチラチラみてしまう。

秋山は、私が隣にいても、何も思わないのかな。
隣から見てもいつもの秋山にしかみえない。

……緊張してるのは私だけ、か。

結局映画はほとんどちゃんと見れずに、終わってしまった。
映画館から出ると、秋山は伸びをして首を回す。

「結構面白かったわ」
「ほ、ほんと? よかった?」

私はほとんど覚えてないけど。
なんとか漫画の知識だけで会話はすることはできた。

私たちはそのままフードコートでクレープを食べることにした。
秋山が甘いもの好きなのも意外だ。

私はチョコバナナを頼んで、秋山はいちごカスタードを頼んでいた。
向かい合わせに座って、黙々と食べる。

「冬海たち、大丈夫なん?」
しばらくして、秋山がポツリと私に問いかける。
「あ、うん。また元に戻っただけ、だし。なんか気も楽なんだ」
へへ、と小さく笑う。
「無視されないだけマシってこないだはいってたのに?」
「あの時はそう思ってたんだけど、自分を偽って合わすの、しんどくて。今の方が楽」

冬海さんたちのグループに入ったのは、2週間もなかったと思うけど。
聞きたくもない話に笑いながら相槌している時間は、知らずのうちに心をすり減らしていて。
胃がキリキリと痛むような感覚ももうない。

「それに」
「それに?」
「秋山が、いてくれるから」
秋山が目を見開いて、固まるのがわかる。
なんだか私も恥ずかしくなって、ごまかすように、「一人にしないんでしょ」といった。
「だから、平気」
秋山に向かってはっきりそういうと、秋山は包み込むような優しい笑みをした。