「あ、でもそんな落ち込んでないから」
私の顔を見てあっけらかんという秋山はたしかに落ち込んでいるように見えない。
「まあ好きというか気になってるくらいだったし、むしろ春川の方が気になったって言うか」
「え?」

私のほうが気になった?
それは、どういう意味なのか考えるとどきんどきんと鼓動が早くなる。

「冬海たちにまた流されるかもなって。まあ俺の悪口いってたのはびっくりしたけど」

……気になるって、そういう意味。
勘違いしてたことに気づき、恥ずかしくなる。

「かばってくれてありがとな。うれしかった」

ああ、私。
あの時、ちゃんと早苗ちゃんたちにいえてよかった。

おかげで、秋山に罪悪感なしで向き合える。

「秋山の、おかげだよ」

私は自然とその言葉が出てきた。
秋山が目を瞬かせて私を見つめる。

「秋山が、私を、一人にしないっていってくれたから。だから、いえた」

そうじゃなかったらいつもみたいに流されていたかもしれない。
友達を貶されても自分を守る選択肢をとっていたかも。
だから、秋山の言葉が私に勇気をくれて。
私は、これ以上私を嫌いにならないですんだ。

率直なお礼に秋山は気恥ずかしくなったのか、ポリポリと頬をかいた。

「春川さ、クリスマス暇?」

そして唐突に、話題を変えた。

「映画、見に行かない?」
「映画?」
「前言ってただろ。クリスマスに公開される映画」

それは、バスでいってた少女漫画原作の映画。

……ふたりで?
クリスマスに?
秋山、興味ないっていってたのに??

その誘いの意図をはかりかねる私に、秋山は嫌ならいいよと一言付け加える。

「嫌じゃないよ。見たかったし! 行く」

きっと、気をつかって友達として誘ってくれてるだけだよね。と自分に言い聞かせて返すと、私の言葉に秋山がはにかんで、私の胸が打ち砕かれた。

何今の顔。

「それじゃ俺、部活行くわ」
「あ、うん」
私の動揺なんて気にすることもなく、あっさりと秋山は手を挙げて、その場を去っていく。
その背中を見送ってから、私は大きな息を吐いた。

色んな感情が胸に一気に押し寄せてきて、思わず座り込む。

……なんだ、これ。
胸がドキドキして、秋山が私の頭から離れない。

しばらく心を落ち着かせたあと、私はおそるおそる教室に帰った。
でもすでに早苗ちゃんたちは帰っていて、私はホッとして、かばんをとると家へ帰った。