「大変だね」
「これで諦めてくれたらいいけどな」
私を見ることもなくそういった秋山に、早苗ちゃんをみると、早苗ちゃんは中瀬さんと穂高さんに慰められていた。

どのくらい早苗ちゃんが片思いしてたかは知らないけれど、少なくともこのクラスになった時には好きだった気がする。
その好きな人に、このクラスに好きな人はいない……つまり、自分は好きな人ではないといわれたとき、それは想像するだけで悲しくて。
きっとショックはすごいんだろうな、と少女漫画の知識しかない私でもそう思った。


そしてその日の掃除は、穂高さんも冬海さんも来なかった。
とうとうお願いとも何も言われず、サボりだ。
まあ、いいんだけど。

私は黙々と中庭の掃き掃除を終わらせて、教室へと戻ろうと階段を上がっていた。
踊り場にさしかかったときのこと。
教室側の階段から女の子が急ぎ足で降りてきた。


ーーなっちゃんだった。


なっちゃんだと思った時には、私の横を通り過ぎていった。
私には気づいてなかったみたいだ。


ーー泣いてた?
目元に手を当てていたように見えた。


たぶん、私には気付いていなかったけど。


「夏村!」

そして、それを追いかけるように男の子がなっちゃんの名前を叫んで、私の横を駆け抜けていった。

いまの、だれ…?

当然展開についていけていない私は呆然とそれをみるしかなかったが、ふと階段の上をみると秋山が立っていた。
秋山は今日、階段の掃除担当だったかもしれない。

秋山と私の目が合う。
秋山の瞳は迷いで揺れているように見えた。

「追いかけなよ!」
そして私は考える間もなく、秋山に向かって叫んでいた。
「なっちゃん! 追いかけないと見失うよ!」
その言葉がスタートの合図だったみたいに、秋山は弾けるように走り出す。

なにがあったかはわからないけれど。
追いかけることが正解だったのかもわからないけれど。

秋山の背中を、私は見えなくなるまで見つめていた。